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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
絆と束縛編

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間違い探し

 シュバイツの言葉を聞いて疑問が生じた。

(あれ、おかしいぞ?5種族の族長に許可は間違いなく貰っている。アルベールとテイルから族長の指輪を貰えてないからダメとかなのか?)


「帰還の許可と言うのは族長の指輪も貰わないとダメなんですか?」

「その必要は無い。族長からの許可のみで良い」

 そうだとしたらテイルしか考えられない、確か息子が20歳になる前の一時的な族長と言ってたよな。

 息子が何歳か分からないけど20歳まで待たないとダメか。

「ガヴィメズの族長のテイルさんが一時的な族長と言っていたので、それがダメなんですかね?」

「一時的?あぁ、テンポの族長か。その場合でも族長なので問題は無いぞ……」

 それなら何故だ?

 獣人のアルベール、エルフのイト、ドワーフのエルバート、人間のテイル、小人のフェーレ、全員に許可は貰った。

 誰かが族長のフリをしている?でも宮殿で全員に会っているから偽物と言うことは無いだろう。

 一番怪しいのはテイルだけど一時的なテンポの族長でも良いなら問題ないだろうし、残る可能性は獣人のアルベール……?

 確か轟鬼がアルベールに族長を譲ったと言っていたけど、実はまだ轟鬼が族長のままと言う事も考えられる。

 

「どの種族の族長に許可が貰えてないかを教えて貰う事って――」

「それは出来ぬ。チェインの解除に直接かかわる事だ。我の助言を覚えておらんのか?」

 僕の言葉を遮って強めに言われてしまった。

 再度会って確認しようにも「あなたは本物の族長ですか?」なんて失礼すぎて言える訳は無い。

 念のため、轟鬼にもそれとなく許可を貰って確認してみるしかないな。

 

 そう言えばダンジョンに行かないとダメなんだよな。

 不死だから問題は無いと思うけど踏破が難しいのかな?

 シュバイツに聞いたらクリオメルのダンジョンの難易度自体は低めだと言う。

 内部がかなり広大のため日数が掛かるので準備を整えて、夜営などの能力を身につけるには最適という事だ。

「初級程度の冒険者パーティが練習で使うようなダンジョンに何があるのだ?」

 何があるのだ、と言われても結婚前に踏破してきて欲しいと言われただけだし僕には分らない。

「獣人の何かじゃないですか?」

 ジュリアに言われたことを話したがシュバイツは首をかしげていた。

「結婚も近いのか、めでたい事だ」

「ありがとうございます。ずっと一緒に居たのであまり実感がわかないですけどね」

「何気ない日常が大切なのだ。それはいつか思い知らされる。チェインが解けて行き帰還を目前にした時、絆が束縛の鎖を断ち切るのを拒まない事を祈っているぞ」

「カトリーヌとは帰るときの事は話してます。彼女が僕を縛り付けることは無いですよ」

 師匠にも同じような事をさっき言われたが、それとは別に以前誰かから似た事を言われた記憶がある、たしかフォーゲルだ。

 チェインに何か秘密があるのだろうか?僕が元の世界に戻る唯一の方法としか考えていない事が正しいのか?

 方法がある以上は出来る事はやる、そもそもチェイン解除に他人へ影響を与える項目は無い。

 僕がグリアから居なくなっても悲しむのはカトリーヌくらいだろう、もちろん師匠や雪月花のみんなや他に出会った人達も悲しむかも知れないけど。

 元の世界への帰還を束縛するほどではないし戻れたことを喜んでくれるだろう……自分の事ながら少し薄情だとも思う。

「まもなく日が落ちるぞ。時間は良いのか?」

 僕はハッと我に返り別れを告げ帰路につく。

 こちらを一瞥もせず海を眺めている少年の姿は美しく見えたが、ほんの少しの狂気を感じさせた。


 首都グリオベーゼに戻った頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

 宮殿の入口は閉鎖されていて、屈強な兵士が守衛している。

(ちょっと遅くなったし今日は宿に泊まろう)

 守衛の兵士に声を掛けると中に入る事は可能と思うが時間が時間なのでみんな寝ているかもしれない。

 僕は宮殿に背を向けて人が少なくなった街を歩いて行く。

 

 今更ながら僕には帰る家が無い。

 師匠やシュバイツの家に住んだ事はあるが自分の家では無い。

 冒険と言うか旅に出ているし必要ないとも思っているけど気兼ねなくゆっくり出来る家があっても良いのかな?と最近思う。

 そう言えば街の外に建っている家って師匠の家以外は見た事が無い、師匠が特別なのだろうか。

 資材置き場や農地の作業小屋はあっても人が寝泊まりしてなかったし、民家も見た事が無い。

 魔物や厄災があるから危険すぎるのだろうか?

 

 色々と考えながら宿に向けて歩いていくと前から轟鬼が歩いて来た。

 獣人の中でも体格が良いのもあって、かなり遠くからでもハッキリと誰か分かるほどだ。

 理由を説明すると背中をバンバン叩かれ、太い腕で力強く半ば無理矢理宮殿の方向へ向きを変えられてしまった。

「気にしすぎだ。俺も帰るところで丁度良いから一緒に行くぞ」

 昼間には宮殿に居なかったけど出かけていたのか、ちょうど良い機会だ。

「轟鬼殿は僕が元の世界に戻る事には賛成なんですよね?」

「俺はお前の事が気に入っている。出来ればグリアに居て欲しいが、カトリーヌが望んでいるからな。反対する親は居ないだろう」

 チェインが解けた感覚は無いし、傷も消えていない。

 

 守衛の兵士に声を掛けて轟鬼と僕は横にある通用口から中に入って行く。

 兵士は門を開けようとしたが轟鬼が断ったと言うか無理矢理止めた。

 正面の大きな門の開け閉めには時間が掛かるので待つのが面倒と言うのが理由と言われて納得してしまった。

 かなり立派な門なので開くところを見てみたいと思っていたから少しだけ残念だ。

 みんな寝ているという事で僕は客間に通され朝を迎えた。

 

 睡眠時間は十分なような気もするが、ベッドの性能が良すぎるのかもっと寝てたい気分になったのは久しぶりの感覚だ。

 広いベッドでゴロゴロしてるとジュリアが呼んでいると伝言があった。

 部屋の前に着くと中が騒がしい、変な意味では無く懐かしい賑やかな感じがする。

 お世話係の人と共に中に入ると突然声を掛けられた。

「久しぶりだな、元気だったか?」

 見慣れた妖精がそこに浮いていた……ピーフェが居る。

「元気だよ、やっと戻ってこれたんだね」

「いや、結構前に地上には来てたんだけどさ。ここでお前たちを待ってたんだよ。ほら、転移魔法で移動する時があるじゃん?合流出来ないと困るからさ」

 妖精の力でも個人の居場所までは特定が出来ないって事か。

「クリオメルのダンジョンに行くんだろ?俺っちもついて行くからな、その方が嬉しいだろ?」

「カトリーヌが暫く居ないから嬉しいけど……ピーフェに他の用事があるなら――」

「そうだよな!嬉しいよな!そう言う事だ、俺っちは幻妖斎と旅に行くから悪いな」

 そう言い残して飛んで部屋から出て行った。

 かなり慌てていたように見えたのが気になる。

 ジュリアに呼ばれてきたのだが少し悲しそうな顔をしている、何か悪い事でも起こったのだろうか?

「僕に御用でしょうか?」

「ピーフェちゃんが『幻妖斎を呼べ』と言っていたのでお呼びしました。ダンジョンへの出発はいつにしますか?」

 ピーフェちゃん?その一言でピーフェの態度の意味が何となく理解できてしまった。

「この後すぐに行こうと思っていますクリオメルまでは転移させていただけるんですよね?」

「転移は任せてください。でもピーフェちゃんが行ってしまうのが残念だわ……仕方のない事と分かっていても……」

 話し相手が居なくなる事が寂しいのだろうか?

 静かに目を伏せた後、窓の方を向くと少しだけ開き庭に咲いている色とりどりの花を見つめているようだ。

 何の花か分からないが、ほのかに甘い香りが風に乗って入ってくると彼女は少しだけ笑顔になった。

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