神龍の姿をみた
僕は禁忌の岬の入り口に居る。
このまま立ち去り後回しでいいのか?
自分が不死者だと言われても死ぬような目にあったことは無いから本当か分からない。
もっと聞きたいことや知りたいこともある。
地面に引かれている線を一歩超えた瞬間に感じた事のない威圧感を感じた。
全身に鳥肌が立ち本能的に進むと危ないと感じて動けない。
恐怖で何度も引き返そうと思ったが、このままではダメだと意を決して前に進む。
さっきは5分ほどで家が見えたはずなのに2時間位かかっても着かない。
威圧は僕にだけ向けられているのだろう、周りで小鳥が飛んでいるのが見えた。
やっと家が見えたがシュバイツは外の石に腰かけたまま背中を向けていた。
「神龍のあなたに会いに来ました」
会ってどうすればいいのだろう、手を見てもチェインが解けた形跡はない。
「よくぞ臆さずに来たな」
そう言うとピタッと威圧が解けた。
「攻撃してこないんですか?」
まさか不意打ちしてくるとかじゃないよな?
「攻撃してほしいのか?」
「いや、さっき命の保証はないとか苦痛を覚悟しろと言ってたので……」
「命の保証はない、覚悟しろとは言ったが攻撃するとは言った記憶はない、我に敵意を向けぬものに攻撃するつもりはない」
平和主義者いや平和主義龍で助かった。
少し下がれと言われて下がるとシュバイツの体が空に浮き上がり、真っ白な巨大な龍に変化した。
龍を見たのは初めてなので驚きよりも大きな感動があった。
「我は神龍シュバイツ・グリア。お主の覚悟は見せて貰った」
頭の中に不快な音が響き、手に刻まれた傷が1つ消えたと同時に体内に激しい力が駆け巡る。
チェインが1つ解除され力がみなぎってくるのを実感できる。
シュバイツがさっき持っていた小瓶が顔の方に飛んでいき止まる。
数秒の静寂の後、一粒の涙が注がれると輝きを放った。
あれが神龍の涙、薬だと思っていたら本物の涙だったとは驚いた。
巨大な龍は見慣れた子供の姿に戻っていた。
あんな巨大な龍が空に浮いてたら遠くからも見えて大騒ぎになるのではないかと聞いたら、この岬の周りには結界を張っているので外からは見えないので安心しろと言われた。
小瓶を差し出し飲めと言う。正真正銘、神龍の涙。僕は少し躊躇いながら飲み干した、味はなく普通の水と変わらない。
「これで魔法に関しては問題ないだろう。オーラも使えるはずだ」
しかし何も変わった感じがしないんだけど。
「飛べると思えば飛べるし、行きたい場所を想像して移動すると思えば移動できる。属性魔法も同じだ」
丸太が出てきて「これに向かって魔法を試してみろ」と言われたのでやってみる。
炎の矢が飛んでいく、雷が落ちる、氷で相手を凍結させる。全てイメージした通りに出来る。
シュバイツから魔法を使用する際は、何かを呟いて対象に手を向けるなどして発動した方が良いと言われた。
無詠唱魔法は通常かなりの高等技術になるそうで、もし高威力の魔法を無詠唱で発動したのを見られると賢者クラスと勘違いされるそうだ。
「死者は生き返らない、死者を操り生きているように動かすことは可能だがそれは命ではない。寿命を延ばしたり時を戻すことも不可能だ、これは覚えておいてくれ」
不死者が居るのに?と思って聞いたが不死者は生き返ってるのではなく死なないだけと言われた。
「死亡の定義だが不死者以外が心臓を貫かれたり首を切り落とされたら仮に意識があっても死亡したとみなされる。回復魔法も効果がない」
そんな状態になったら確かに死亡扱いですよね、魔法で何でも出来るわけではないと思うようにしておかないと。
これはあまり気にしなくて良いのだが、と前置きをして言われた。
「神龍の涙の服用したものが発動する魔法は正確には一般的な人類の魔法ではない」
魔法ではない?どういう事だろう?
「人類の魔法の定義とは魔素と属性元素を体内の魔力で融合させる。この融合に魔力を使わないのだ。そのため魔法が禁止されている場所でも発動できてしまうので気をつけろ」
魔法が禁止されている場所とかもあるのか。不用意に発動することもないと思うけど気を付けないと駄目だな。
「各種族の首都の宮殿内と緩衝地帯が魔法禁止のはずだ。絶対魔力結界が張られていて普通は発動できないのだが……」
各宮殿内で外部の人間が魔法なんて使ったらそれこそ大問題でしょ……。
「お主の最終目的は元の世界に戻るで間違いないな?」
他に何があると言うんだろう?
もちろんこちらの世界に興味がないと言えば嘘になる。
魔法が使えるなんて夢みたいだし、チェインが解けなくても死なないなら色々楽しめるだろうし。
「もちろんです、僕は元の世界に戻りたい。方法があると知ったらその思いがさらに強くなりました」
そう、方法があると知った以上は戻らないという選択肢はない。
今から出来ることからやっていかないと、そう思っていた。
「我が今の時点で協力できるのはこれ位だ、そこでお主に提案がある」
提案?なんだろう?と思って聞いた。
「お主には時間がある、事をなすために知識も必要だ。各種族だけではなく世界の成り立ちも含めて教えてやる。無理強いはしないが暫くここで学ぶ気はないか?」
確かに知識はあって困らない、しかもシュバイツは本物の神龍だ。ただ、なぜここまで協力してくれるんだろう。
以前、ウェイズに同様の質問をしたら「暇だから」的なことを言われた記憶がある。
その時は、隠居したお年寄りが護衛を連れて諸国漫遊しつつ困った人を助けているんだろうと思っていた。
彼が不死者しかも原初の不死者と言われる存在だと聞いてしまったから暇を持て余した神々の遊びなのではないかと勘繰ってしまう。
死なない体にして良い玩具ができたなんて思われでもしていたらと考えてしまいウェイズにどうしても嫌悪感がある。
シュバイツもそうだ、無条件で神龍の涙をくれたりいろいろ教えてくれたりする。
でも、それなら不死にして手助けせずに放置して見るのではないか?
食料、マリスのポーチ、お金も渡してくれた上に師匠やシュバイツを紹介するメリットは何もないのではないか?
感謝はある、それでもなおウェイズは何故僕が不死になったと教えてくれなかったのか、そもそも何故助けたのかが分からない。
シュバイツもそうだ。暇つぶしなら魔法を教えると言って拘束した方が拘束時間は長期になる。神龍の涙を渡す理由が分からない。
僕はそんな思いを正直にシュバイツに吐露した。