幸せの意味と不退の神剣ブリュンヒルデ
「神剣の扱いをどこかで練習しないと危険だよな」
思っていたことを呟いてしまった。
神剣の力なんて怖すぎて戦闘で使う事も無いけど神と戦う時にはあると良いはずだ。
でも扱い慣れていないと武器の強さだけで勝てると言う訳もない。
「わしが少し教えてやろうか?神剣の制御法が分かれば周りへの被害は最小限度に抑えることが出来るぞ」
「良かったら、ぜひお願いします」
願っても無い事だが……やっぱり周りへ被害が出るのような代物なのね。
「幻妖斎さま、戻りました。街の中の把握は出来ましたわ」
カトリーヌ達が戻って来た。
「少し場所を変えるぞ。ここでは危険なのでな」
街から離れた場所に来ている。
「ウェイズさん、こんな場所で何をするんですか?危険な事って言うのは?」
カトリーヌが不安そうだ。
「神剣の制御を幻妖斎に教えるためじゃ」
「失礼ですが、そんなことが出来るんですか?」
ウェイズって外見だけ見ると普通の爺さんだし強いイメージも無いだろう。
「わしは創造神に作られた不死者じゃ、グリアでは原初の不死者と言われておる」
重大な事をサラッと話しているが問題ないのだろうか?
カトリーヌは少し考えている、と言うよりも思い出す感じで目を閉じている。
「原初の不死者と言うと人類を不死にする力があると言う?あなたが幻妖斎さまを不死者にしたんですか?」
「うむ、そうじゃ」
答えを聞いたカトリーヌはウェイズに歩み寄って行く。
パチーン。
いきなりウェイズの頬を叩いた。
カトリーヌの目には涙が滲んでいるが、周囲からその瞬間に激しい殺気を感じた。
シェス達4人が武器に手を掛けているが、ウェイズが手を前に差し出して彼らを制止してくれていた。
「幻妖斎さまは不死者になって苦労しています。望まない者を不死に変える必要があるのですか?」
ウェイズを見つめる変えるカトリーヌの目から滲んでいた涙が絶え間なく流れ落ちている。
「すまんの、カトリーヌよ。お前にも話そう――」
そう言うと僕が不死になった経緯とウェイズの旅の目的を説明した。
以前、聞いていた話……だったが今回分かったことがある。
川で事故に遭って死にかけた時にグリアへ転移させたのがウェイズの力だった。
ある人物との約束で僕の命を助けるためだったが、その行為は創造神に叱責されたと言っている。
個人的な理由で異世界から強制転移させたが、約束を守るために仕方なかった、と呟いた。
それを聞いたカトリーヌはうな垂れている。
「最初はウェイズ殿を恨んだよ、不死になりたかった訳じゃないからさ。でも僕はまだ生きているし今は感謝してる、いろんな意味でね」
僕は彼女の肩に手を置いて話した。
「そう……なのですか?」
「違う世界を見られた、魔法も使える、いろんな種族の人たちと会えた、いつかは帰る方法もある、それに……カトリーヌに出会えたよ」
愛する人が出来た、と言いかけて恥ずかしいから言い換えた。
悲しい事や辛い事もあるけど、グリアに来なければ経験できなかった事が多い。
「幸せって人それぞれだよね?だから僕の幸せの意味を考えていたよ。最近気が付いたんだけど、その答えってずっと僕の傍にあったんだよね」
僕は振り返ってシェス達の方を向いた、まだかすかに殺気を感じる。
「そう言う事です。カトリーヌのしたことは僕からも謝罪します。それでも彼女に殺意を向け続けるなら、この流幻妖斎が全力で阻止します」
闘気をオーラに変えて身に纏った。
不思議な感情だった「大切な人を守る」と言う思いがオーラを強く増幅させる。
張り詰めた緊張を解くようにウェイズが咳払いをする。
「この2人に殺気を向けるのは、わしに対する敵対と思え。良いな?そして幻妖斎……今なら問題ないじゃろう」
静かに話しているがいつもと声の感じが違う。
この言葉だけで4人の殺気が消えた。
カトリーヌがウェイズに謝罪した後、シェス達にも謝った。
「マスターの言葉は我らにとって絶対だ。気にするな。ただマスターの正体は口外しないで欲しい」
「もちろんです」
シェスの言葉にカトリーヌは一言だけ返事をした。
「さて、本来の目的に戻るぞ。危険じゃからメイヴィスとアイリエ、それとカトリーヌは少し離れておれ」
3人が距離を取ったのを確認してから、神剣を取り出すように言われる。
神剣ブリュンヒルデ……両手で使うには小さめだし片手で使うには少し大きい。
僕が使うために作られたものではないから、この辺りは我慢するしかないか。
「神剣は使用者のオーラを極限まで増幅させる、そのため威力は大きいが扱いを誤ると周囲が危険になるのじゃ」
「その制御法が難しいという事ですね?」
「方法自体は簡単なのじゃが……人類が使用すると完璧に制御をしても周囲にも影響が出る。そのため地上での使用はあまりせぬ方が良いの」
人類が……という事は、やっぱり神が使う前提の剣なんだろう。
とりあえず剣を真っすぐ上に掲げてオーラを流し込むように指示される。
軽く流すだけと思っていたが、本気のオーラを使用するように言われた。
一応、周囲にはウェイズが結界を張ってくれているそうで安心して良いという事だ。
言われた通りに剣先を上空に向けオーラを流し込む。
キィィィン……ズゥォォォ――――ン。
共鳴音がした後、激しい爆音と共に光の柱が上空に突き出すように剣先から伸びている。
「お……重い……」
いきなり重量が増して一瞬フラついてしまったが、なんとか耐えた。
でも、これを片手で扱うのは絶対無理だ、今の状態でも重すぎて気を抜くと倒れそうな重さを感じている。
「オーラを制御する要領で伸びた光を刀身に留め纏わせる、今の幻妖斎なら出来るはずじゃ」
オーラの制御なら出来るはずなのだけど、うまい具合に出来ない。
これが神剣の力か、この状態で姿勢が崩れたら街にも被害が出るのは間違いがない。
「先ほどのカトリーヌを守るときの感じを思い出すのじゃ!守るべきもの、そのために使う力がブリュンヒルデの真の力を引き出す」
守るために使う力……不意に師匠とフォーゲルの言葉を思い出した。
『私はサクラを愛している。彼女の笑顔が戻った……それだけで満足だったよ』
『彼女が俺の中で生きている限りセントスは俺が守り通す』
大切な人のために……その力が多くの人を救う事がある。
僕の辿り着いた幸せの意味……それはカトリーヌの……。
自分の心を見つめた時、神剣から伸びる光の柱が収束されて刀身を覆う。
オーラの制御をしようと考えた訳ではない。
それと同時に剣の重さを感じなくなり手に吸い付くような感覚を覚える。
「制御は完璧じゃの。この場所から両端の岩を傷つけず、あの真ん中の岩を敵だと思い切ってみよ」
ウェイズが指さした方には、とても岩が3つ並んでいる。
でも100メートル以上離れている、剣は届かないし近づいて剣を振り抜くと左右の岩も切れてしまう。
普通はそう考えるところだが、手にあるのは神剣だしウェイズが言っているなら可能なのだろう。
羽のように軽くなった剣を横に振り抜くと、真ん中の岩だけが切れた。
ウェイズの説明では、最初の上空に出た光の柱が神剣の本来の長さだと言う。
あの範囲が攻撃できるとか思うと怖いが、通常は刀身の長さしか切れない。
強い意志を込め振った時だけ本来の長さが間合いとなり、所有者が「切る」と意識した対象だけが切れる。
「神剣ブリュンヒルデ。所有者の強き意思に呼応し敵対する全てを切り裂く。不退の神剣の異名を持つ剣じゃ。扱いを間違えるんじゃないぞ」
確かにこれは扱いを間違えると大変な事になるので注意しよう。




