神剣と神の盾とロキの正体
ミユキの店の再建が決まり、僕たちは安心した。
軽く挨拶をしてから人間領ガヴィメズの首都ゼラキューゼまで転移魔法で飛んだ。
宮殿の門番は僕たちの顔を覚えていてくれた。
テイルに面会したいと告げたが数日は不在のようだ。
ヒイロが書いてくれた紙を一応、門番に見せて託した。
亡き妻リリースの墓参りに行っていると言うので、帰ってきたら宿に連絡すると言われた。
リリースは前族長だけど墓って首都には無いのかな?
宿に泊まって、久しぶりにのんびり過ごした。
翌朝、街の外に出てカトリーヌと手合わせをしている。
以前よりかなり強くなっていて驚いた。
「ねぇ、カトリーヌ。かなり強くなってるけど何かしたの?」
「幻妖斎さまが聖魔戦争で不在の時、フォーゲル様に戦い方を教えていただいてました」
それが理由か、フォーゲルも武神の弟子だし、僕と違いカトリーヌに特別な感情も無いだろうから教えやすいだろう。
知的で教えるのも上手そうだし、確実に強さが増しているのが分かるほどの違いだ。
手合わせを繰り返していると人が近づいて来た、ちょっと派手にやって目立ったかな?
近づいてきているのは、ロキだ。
「ロキさん、先日はありがとうございました」
カトリーヌが気が付いて先に声を掛けた。
「こちらこそ、失礼な態度を取ってしまい申し訳なかった。幻妖斎に用事があるので彼を少し借りても良いかな?」
「はい。手合わせも終わる頃でしたけど借りるって?」
「俺は転移魔法も使える、ちょっと着いて来てもらいたい場所があってな。すぐ戻るから宿で待っていてくれ」
そう言うとロキと僕はどこかに転移した。
この場所は……見覚えがある……何もない真っ白な空間。
ラルドと戦った場所と同じ?だとしたらロキは……。
「そう、俺は神だ。闇属性炎の神ロキ。幻妖斎の力を試したい」
神は心が読めるんだったな、もし断ったらカトリーヌに危害を加えられそうだ。
「何か勘違いをしているな。断るなら帰すし誰にも危害など加えん。チェインのため神に勝つ必要があるだろう」
協力してくれるという事かな。
ラルドもそうだけど異世界人にも優しいのが嬉しい。
「協力?手加減はせん。俺は強者と戦うのが好きなだけだ。お前の心が壊れない事を祈っているぞ。いつでもかかって来い」
ロキは手に剣を持っている、抜刀したのか見えなかった。
抜刀はしているが構えていない、剣先を垂らし立っているだけ。
そう、ただ立っているだけに見える。
僕はラルドと戦った時よりもチェインを2つ解除して強くなっている。
でも格下はこちらだ、相手の様子を伺う余裕はない。
天と地の短刀を構え闘気をオーラに変えて纏わせると短刀が共鳴を始めた。
「ほぅ、なかなかに良い剣だな」
エターナルファントムで一気に距離を詰める、そして背後に回り込んで翔雷!
こちらを見る事も無く軽いステップで回避された。
「開始すぐに跳躍技とはな、お前は馬鹿なのか?それとも何かの秘策があるのか?俺も技を見せよう、狂焔!」
炎を纏った剣の連続切りから飛ぶ炎が体を切り刻んでいく。
「俺の技を耐えるとはな。なるほど守護者の外套か」
ラルドに聞いていたから試したが本当に神の攻撃を耐えることが出来た。
ロキはゆっくりと歩いてくる。
短刀2本の攻撃を簡単に片手剣だけで受け流して合間に攻撃をされる。
最初の頃にウェイズとの手合わせで同じような事があった。
あの時より強くなっているから動き自体は追える、それに魔法も使えるようになっているのだ。
とにかく何としてでも一撃は当てたい。
その瞬間は突然訪れた。
攻撃の隙を探りながら激しく戦っているとコートのポケットから何かが床に落ちて一瞬だけロキの視線が外れた。
ほんの少し大降りになった攻撃を左手で受け流して体を回転させ右手の短刀でロキの首元に旋風を放つ。
ギリギリで避けられてしまったが、瞬間移動で背後に回り込み霞切り。
左手の斬撃はロキの背中をかすめて傷がついた、そのまま振り上げた右手で切り落とす。
素早く振り返ったロキは左手で短刀の刃を掴んだ……不発だ。
「悪くない攻撃だ、今日はここまでだな。蒼炎煉獄斬!」
青白い炎が僕の周りを囲み……ここで記憶が無い。
目が覚めるとロキがオリハルコンのインゴットを持っている。
さっきコートから落ちたのはアレか、エケットに見せた後ポーチへ仕舞い忘れてた。
「お前は何故、神剣と装具を使用しない?」
神剣はまだ使用した事が無い、盾は装備していた事もあるけど小さいしあまり意味が無い気もしたので外した。
神との戦いで使えと言われたけど使い慣れた短刀でどこまで出来るか知りたかった。
「俺に神剣と装具を見せてみろ」
言われるがままポーチから取り出すとロキは大笑いをする。
「神剣ブリュンヒルデと神の盾アイギスか。お前がもっと強くなり、そんな物を使われたら勝てないだろうな」
「え?そんなに凄いものなんですか?」
「アイギスは所有者への敵意を感じ取り自動で防御する人格のある盾だ」
それならこれを使えばロキの攻撃が無効化できるという事なのかな?
「ブリュンヒルデは扱いに難があるが、使いこなせば龍をも殺すと言う名剣だぞ」
この剣って大きさが中途半端なんだよね、片手使用には大きいし両手剣よりは小さいし。
「忠告してやる。神と戦う時に今のお前はアイギスを使用しない方が良い」
「何故ですか?」
攻撃を防いでくれるなら絶対使用した方が良いとしか思えないんだけど。
「試せばわかる。一度装着して見ろ」
装備してみたけど小さいし実用性が感じられない。
(ケッケッケ、敵が襲って来るよ)
この声は……以前ベシコウダンジョンで聞いた声だ。
人格がある盾ってまさか会話ができるのか?
装備が話すなんてちょっとファンタジーっぽくて感動してしまう。
ボキッ……キンキンキン……カンカンカンカン……。
何だ?体と言うか腕が勝手に動く。
ロキが背後から高速で斬撃を繰り出している。
暫くすると僕の腕がねじ切れて床に落ちたと同時にロキの攻撃が止まった。
「反応できない速度の攻撃も防いでくれるが装備者の体が動きに堪えられず壊れる、俺と戦う時に使うには今はまだ早いな」
「今の速さは一体……」
明らかにさっきまでより速い攻撃だった、背後に回られたことも気が付かなかった。
「まさかお前に見せていたのが全力だと思っていたのか?愚かだな」
「何故手加減したんですか?」
「言っただろう、俺は戦うのが好きなのだ。お前はもっと強くなる、俺をもっと楽しませてくれ」
腕はすぐに戻ったが、あまり良い気分ではない。
戦闘狂なのか?そう言えば小さなこの盾で魔法を防ぐことは出来るのかな?
ロキは剣を収め両手を前に突き出すと、真っ赤な炎が黒色に変化し光りながら大爆発を巻き起こす。
こんな魔法見た事が無い、周囲が夜になったのではないか?と言うほど広範囲に黒光する炎が包み込んでいる。
「神炎の輝きと言う神の魔法だ。これでお前も見た目だけなら使用できるだろう。そしてアイギスは範囲魔法も防ぐ」
不相応な装備は身を滅ぼすと言う言葉を体現している装備だ。
確かに今の僕がロキとの戦いで使っても魔法防御が出来るくらいの利点しかない。
「ただ、普段使いにはこの上ない盾だ。装着して使い慣れる方が良いと思うぞ」
そう言えばウェイズも盾は普段使いで問題ないだろうと言っていた記憶がある。




