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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
ミューマ大陸・小人領ゼンペリム編
110/135

カトリーヌ、最後の決心

 採掘場の周りには小型の魔物が点在している。

 小型と言っても老婆が襲われたらかなり危険だと思う。

 採掘に来ているドワーフや小人が倒してくれてるそうだが不安だろう。


「この辺りって神の龍が住んでるって噂があるらしいですね」

 店主のミユキに聞いてみたら大笑いされた。

「長い間ここで店をしてるが見た事ないよ。そもそも龍が住んでいたら採掘なんて出来ないだろうし、ただの噂だろう」

 彼女が言うには、重たい石などを運ぶ時の振動や音で得体の知れない龍という偶像を作り出したのでは?と言っている。

「たしかに荷車の音や振動が山や谷に響いて魔物の声みたいに聞こえますわ」

 耳を澄まさなくても聞こえる、結構な大きさの音だ。

 山を掘削するのを長年繰り返しているので谷がいくつも出来ている歪な地形だから音が反響するんだろう。

 千崖谷と呼ばれるようになった理由が、この掘削で出来た多くの谷だと教えてくれた。


「あんたら冒険者だろ?採掘体験でもしてったらどうだい」

「採掘って体験できるんですか?」

「奥までは行かないから良い鉱石は出ないけど楽しいと評判だよ」

 出た鉱石は買い取ってもらえたり、自分で加工体験も出来てアクセサリーも作れるそうだ。

 参加費が銀貨1枚必要だけど良い記念になるのと、体験以外では一般人は採掘できない決まりと言われた。

 どうしようかなぁ……体験してみたいが寄り道しすぎているような気もする。

「参加しますわ!幻妖斎さまもご一緒していただけますか?」

 カトリーヌに誘われて僕も参加する事になった。

 鉱石は見た事あるが採掘現場を見た経験が無いので気になっていたようだ。

 参加費には掘削道具と防護服の貸し出し費用も含まれているそうで用意して貰った。


 案内員から道具の使用法を教えて貰っていると採掘用の横穴から、ゴーと言う燃焼音と共に火が噴き出て来た。

 何の作業をしているんだろうか?そう思っていると、案内員が慌てている。

「あれはフレイムリザードの火炎?中の作業員は無事か?」

 そう叫んで走って行くので僕たちもついて行く。

「鉱山内部は魔物ってよく出るんですか?」

「あぁ、たまに出現する。だから結構危険なんだ」

 前から数十人の小人が走ってきた、みんな軽い火傷を負っているようなので魔法で治療すると感謝された。

「2番通路の手前辺りで魔物が出現して、まだ中に大勢取り残されている。何とかしないとマズい。首都に救援要請を出してくれ」

 奥に居る作業員が今のままでは出てくることが出来ないそうだ。

 入り口から道なりに進み、分岐ごとに番号が振られてある。

 つまり入って2つ目の分岐の手前に出現したようだが、今までこんな手前に出現したことは少ないらしい。

「僕たちが討伐してきます。中に居る人達には魔物に近寄らないように伝達できますか?」

「2人では無理だけじゃ危険だぞ。フレイムリザードに近づく馬鹿は居ないさ、採掘員では焼き殺されるのだけだからな」


 僕たちが入口へ向かう時にも数人とすれ違ったけどみんな火傷を負っている。

 かなり強力な炎だけどあの程度で済んで良かったと思うべきなのか。

 小人族の採掘場だが入り口も広かった、鉱石を運び出すから狭いと困るのだろう。

 分岐部分が広場になっていてかなりの広さがある。

 この場所にフレイムリザードが4体とアイアンリザードが2体うろついている。

 さっきは2番通路の手前と言っていたので前進してきたと言う事か、外に出る前には対処しないと大変だぞ。

「幻妖斎さま、アイアンリザードも居ますわ。数が少し多いので気が付かれないように注意してくださいね」

 フレイムリザードは獲物に対して強力な炎を吐きつけて来るので危険度が高い。

 アイアンリザードは突進してくる、名前の通り鉄のように皮が硬いのでぶつかられたら危険だ。

「下手に動いて気が付かれると炎を吐かれて危険だから一気に倒そう」

「一気にって言ってもどうやるんですか?」

「魔法も使えるからね、見ててよ」

 呪文風に詠唱して魔物を全て凍結させた。

「見つかると炎が危ないし、強力な魔法だと坑道が崩れても困るから魔物だけ凍結させたよ」

「こういう倒し方があったんですね」

「中でまだ生きて居るかもしれないから気を付けて」

 凍結で氷に閉じ込めたけど、まだ死亡しているかが分からない。

 倒すにしても外に出して安全な位置で倒さないと衝撃で崩落があったら被害は凄い事になるだろう。


「とりあえず外に魔物を連れ出しますか?」

「注意しつつ2番通路の辺りまで調べに行こう。もしまだこんな魔物が居たら大変だ」

 僕たちは最初に目撃された2番通路まで進んだが魔物は居なかった。

 分岐に広場には多くの採掘員が居て、その採掘員に聞くと1番通路方面へ進んでいったそうで外に出られず困っているそうだった。

「魔物は凍結させてます。今なら安全に外に出られると思うので一緒に戻りましょう」

 僕の言葉に全員が歓喜の声を上げている。

「周りに気を付けながら先行して戻って魔物が他に居ないか調べてくれる?」

 カトリーヌにお願いすると来た道を戻って行った、僕も採掘員を誘導して出口方面へ向かう。

 一本道だし採掘員の方が道も詳しいが全員が僕より前には行こうとしない。

「幻妖斎さま!魔物の姿が見当たりません!」

 血相を変えて走ってきたカトリーヌが大声で叫ぶ。

 凍結がそんなに早く溶ける訳は無い。

 車輪の跡が出口の方へ向かっていくつも付いている。

「リザードの素材は高値で売れるから、他の採掘員が持って帰ったのかも知れないです」

 僕の後ろを付きて来ていた採掘員が教えてくれた。

 危険すぎる、まだ死亡確認をしていないし外に連れて行って凍結が解けると動き出す可能性があるぞ。

 

 採掘員は待機をしてもらい、僕とカトリーヌが急いで外に出ると凍結させている氷を割っている。

 6体全ての氷を割っているが、幸いな事に魔物は動いていない。

「討伐確認をしていないので危険です。離れてください」

 

 魔物に近づいて行こうとした時、1体のフレイムリザードが突然動き出し僕たちの方に炎を放ってきた。

 僕は不死だしシュバイツから貰ったコートがあるから大丈夫だ……でも真横に居るカトリーヌは……。

「カトリーヌ!危ない!」

 ドン!

 僕はカトリーヌを突き飛ばした。

 炎に包まれる僕の姿を見て彼女の顔が悲しみに満ちて行く、そして何かを決意したような表情になって行ったのが、まるでスローモーションのように見えた。

 

 フレイムリザードは坂を上がって行く、少し先はミユキの店がある場所だ。

 早く倒さないと……フレイムリザードの方を向いたときには遅かった。

 火炎放射のような炎が放た店に向かって行く。

「俺たちの大事な店だ!止まれ!」

 そう叫んだ小人が炎の前に盾を構えて立ちふさがるが無謀だ。

 ジュッ……盾もろとも小人は炎に包まれてミユキの店も燃えている。

 

 僕のせいだ、魔物がきちんと死んだのかを確認せずその場を離れてしまった。

 小人とミユキの店が僕のせいで……。

 ギェェェ、奇妙な悲鳴を上げてフレイムリザードが倒されている。

 金色の大型犬が嚙み殺したようだが光を放ってすぐに消えた。

 魔法だろう、だけど誰が?


 そう言えば、ミユキは無事なんだろうか?

 そんな僕の心配をよそに、坂の上からテクテクと歩いてくる。

「あの獣人の娘はあんたの恋人だろう?ひどい事をする娘だね」

 僕にはその言葉の意味が分からなかった。

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