レグリアの盾セシル・アイゼン
「お前は本物なのか。その力を確かめさよ」
フェーレ族長に面会すると最初の言葉がこれだ。
近衛兵の数名を相手にしてみろという事で闘技場へと場所を移した。
近衛兵は10名で重装備の上に真剣を用いる、アイゼンも真剣で良いと言われたが木剣を使用する。
取り囲んで攻撃を開始した近衛兵の剣をアイゼンは盾も使わず木剣で軽く受け流し全員を叩き伏せた。
鎧の上から叩いて一発で気絶させるとか……相変わらず強い、強さが増している。
「これがレグリアの剣の力か素晴らしい!」
「俺はセシル・アイゼン。レグリアの盾と言われている」
「セシルだと?女みたいな名前の癖にその強さ、気に入った。私に仕えよ」
その言葉を聞いたアイゼンは軽くため息を吐き呆れていた、いや怒っていたのか?
普段は自分の事を私と言っていた記憶がある、今は俺って言ってた。
「マスターがシェスではなく俺を同行させた理由はこれか、シェスが来ていたら兵士は全員死んでいた」
「ここは目立ちます、宮殿に戻りましょう」
エケットは何かを感じ取ったのか、慌てて発言し宮殿に戻った。
謁見の間に移動してフェーレはアイゼンに言い放った。
「お前が仕えると言うなら、その幻妖斎に帰還の許可を与えよう、どうだ?」
「断る。お前は帰還の許可を出す以外の選択肢は無い。出さないなら小人族、いやグリアの民が危険にさらされる事になる」
「何を言う、この男を帰還させなければグリアの危機に戦わせることが出来るではないか!」
僕の方にチラッと目くばせをしたアイゼンは淡々と族長に説明をする。
「まずエルフ。前族長マーサ、現族長のイトに認められた。さらにあのキュレリー商会が全面的に協力している」
「一介の商人が協力したとて、どうと言いう事は無い」
キュレリー商会ってかなり大きいし他種族にも影響があるって聞いたけど……。
「ドワーフは族長に認められ、鍛冶の天才と呼ばれるイリジーンが認めオリハルコンの短刀を制作した」
「小康状態と言ってもドワーフとは争っていたのだ、小人族に関係が無いだろう」
争いって、やっぱり火種はまだありそうなんだ……。
「東の人間領では族長テイルを暴漢より助け、聖女とも親交がある。西の人間領では隻腕の聖母アリエスを癒し族長夫人が協力し、勇者パーティ雪月花と親密だ」
「人間は他種族に介入してこないだろう!」
アリエスさんって、隻腕の聖母とか言われていたのか。
「獣人は……婚約者が獅子王の娘。もうすぐ獅子王の義理の息子になるのは周知の事実」
「それは知っているが獣人はミューマ大陸に干渉しない」
轟鬼がお義父さんになるのか、言われても実感が無いな。
「緩衝地帯セントスのフォーゲル、俺たちの組織レグリアにも認められ助力を受けることが出来る」
「お前はさっきから何を言っている」
フォーゲルは兄弟子になるし、ウェイズも協力してくれると言っていたのは確かだ。
「そして、武神の弟子。この幻妖斎を助けるために武神が直接動くほど大切にされているのは言うまでもない」
「…………」
武神の弟子って最近は隠さなくなったよな。
「自分の部族の事を考えるのは良い事だ、お前は短絡的だが愚かではない。ここまで言えば分かるだろう」
「つまり帰還を認めなければ他種族が小人に対して敵対行動をとるという事か?」
「あからさまな事はしないだろう、ドワーフでさえも争いは望んでいないはずだ。ただ小さな火種が大きな炎になった例は数多い」
確かにシュバイツから聞いた歴史では小さな争いから種族戦争になっている事が多い。
「そして感情は伝播する。エルフと獣人の争いも再開するかも知れん、小人には関係が無いと言い張れるだろうがな」
それは流石にないだろう、と言いたいが自信は無い。
「まぁ、そんな小さい事はどうでも良い。大厄災が起きた時どうなると思う?」
「多少の犠牲は仕方ないが武神様が邪竜をまた討伐してくれるだろう」
「弟子の帰還が叶わないと知りグリアを呪い戦うのを辞めたら?戦ったとしても原因の小人族は除外されるかもな。それに幻妖斎も戦わない可能性があるぞ」
フェーレはしばらく考え込んでいた。
「私が帰還を許可すればそれが回避できるのか?それならば選択肢は……」
「待ってください。仮に僕に許可をあなたが出さなくても師匠はグリアを守るために戦うと思います、そう言う人です。僕も大切な人が居る世界を守りたいですし戦いますよ」
「黙っていれば私の許可を得られたと言うのに何故そんな事を言う」
やっぱり師匠が戦わないという事は考えられないし、そんな風に思われたくないから訂正しておきたい。
それだけの気持ちだった。
「それはこの男が感情のある人間だからだ。人は物ではない、物扱いしようとしても心は縛れない。師である武神の名誉のためだろう」
アイゼンは僕の方を見て微笑んでいる。
さっきの目くばせは僕が言う事まで分かっていたのだろうか?
「お前は2つ過ちを犯している。1つはこの幻妖斎のグリアにおける価値を見誤っている事、もう1つは同族の忠告に耳を傾けなかった事だ」
「忠告とは何の事だ?」
「このエケットと言う小人が『小人族の未来のために』と進言したらしいな。商人は鼻が利く。この時に認めるべきだった」
フェーレはハッとした様子でエケットを見つめると彼は、こう言った。
「キュレリー商会の流通網、ドワーフの精錬技術どちらが欠けても鉱石は価値が出ません、人間と獣人が多くの装備を使用してくれることも重要です。グリアにおける種族は共存共栄である事をご承知おきください」
「私が犯している過ちは……」
うな垂れているフェーレは言葉に詰まっているようだ。
「お前は運が良い、その過ちは今ここで取り返すことが出来る。族長であるお前にしか出来ないグリアの未来への選択だ」
アイゼンの言葉を聞いて目を閉じている。
ここで少し待つようにと言い残して部屋を出て行った。
戻って来たフェーレは何かを持っている。
小指に嵌めておけと言って黄土色の指輪を渡してくれた、族長の指輪だ。
手袋を外して小指に嵌めるとピッタリのサイズだ。
「小人族長フェーレ・オズナールの名において、お前の帰還を正式に認めよう。そして私の非礼を許して欲しい」
これで5種族の族長に認めて貰えた。
チェインの3つ解除できた……はずなんだよな?
前の2つみたいに体内に変化を感じないのは何故だろう。
「俺に課せられた役目が無事に終わった。帰りは1人で良い。これで帰らせてもらう」
アイゼンはそれだけ言ってお礼を言う間もない速さで帰って行った。
族長との面会中なのに勝手に帰るとか問題になりそうだけど、良いのだろうか。




