小人領ゼンペリムで会ったテイルの仲間
日が落ち切る前にザリエヴの街へ到着した。
ロキが僕たちの方へ歩いて来た、さっきの態度に文句を言っておこうと思った。
「お嬢さん、先程は戦闘後で高揚していたとは言っても失礼な態度をしてしまった」
「いいえ、こちらこそ任務中に話しかけてしまい申し訳ありませんでした。おかげで無事に到着出来ましたわ」
「ネリエティック山を越えるんだろう?しっかり休んで準備を怠らずに行け」
ロキは言い終わるとギルドに完了の報告を出しに行ったようだ。
ネリエティックって言う名前の山なのか。
宿に入り情報を集めたりしているが、麓までは小さいながら馬車があるそうだ。
登りに2日、下りに1日かかる。
山を越えるなら(命の縄)と言う品物を必ず購入しておけと忠告された。
仰々しい名前だな、と思ったがハーネスのような物が付いた縄だった。
休憩する際に山に生えている木に付けて体を安定させる用途だそうだが……。
翌日、山の麓まで馬車で移動した。
山の頂上に向けてに真っすぐな道が伸びている。
歩いて登れると思うけど40度くらいの傾斜があるんじゃないか?
「ネリエティック山の登り口ってここだけなんですか?」
同じ馬車で来た人に質問してみた。
「え?ネリエティック山?あぁ……初心者には道があるここが安全だと思うぞ」
何か反応が変だったので聞いてみたら、この山は『ライノール山』と言う名前の山と言われた。
初心者と思われたのは山の名前を把握していなかったからだそうだ。
その人は山登りが好きなようで別ルートで登って行くと言って南の方へ歩いて行った。
命の縄は買っておいて正解だった、休む時に確かに安定して安全に休憩できる。
平坦になっている個所もあるので寝る場所はそう言う場所を探すしかない。
小人領の境は何処なんだろう?と思って探していたが見当たらなかった。
後で知ったのだが山の登り口がエリアの境だったそうだ……エリアを跨ぐ瞬間の喜びを感じたかったので少し残念だ。
少し早いが良い場所があったので、食事と寝る場所にした。
「小人族の族長に会った後はどうするのかは決めてるんですか?」
不意に聞かれたが、それは決まっていない。
聖魔戦争は終わったばかりだし、大賢者の情報は無い、創造神に会うのはまだ先になりそうだ。
先日、悪魔に聞いた歌を頼りに神の世界の扉を探すにも断片的すぎる。
神の一柱に打ち勝つ……ラルドの力を見たがチェインをもっと解除しないと勝つどころじゃない強さだった。
「まだハッキリ決まっていないんだよね。情報が少ないから出来る事も限られてくるんだよ」
「シュバイツさんにお聞きしてみてはどうですか、博識なのでしょう?」
シュバイツやウェイズなら知っている事だろうけど、創造神から禁じられていると言っていたので無理だろう。
「彼の知識は凄いよ、ただ僕には教えられないみたいなんだ」
「それでしたら私が尋ねますわ。頂いた宝珠を使えばお力を借りられそうですから」
「貰った時に言ってたよね、グリアの外に干渉できないって。僕が元の世界に帰るための情報は言えないそうなんだよ」
「そうなんですね、確かに教えられるなら教えて貰って知ってるはずですよね」
「とりあえずは小人の族長に会う事を目標にしよう」
族長に認められて次の聖魔戦争で1000体の討伐が終わればフィードが使える。
チェインを5つ解除してラルドに挑戦、と言うのが現状の最善だろう。
その頃にはカトリーヌと正式に結婚しているんだろうな。
「思っていた感じの街と違いますね」
僕たちはバルエートの街の傍に居る。
山の中腹より少し上が盆地のようになっていて街があるのだ。
登り2日で下り1日と言う時点で気が付くべきだった。
気温も低く、高地のため少し酸素が薄く疲れる。
もっと高い山も有って積もった雪が解けたりで生活用水になっている感じだ。
「すこし寒いですね、防寒着を買いませんか?」
カトリーヌに言われたが確かに寒い、お店で店員さんに聞いてみた。
スノーベアと言う魔物の毛皮で出来たものが軽くて暖かい。
スポッテッドウルフと言う狼の魔物の毛皮はスノーベアより重くて防寒性能も少し低い。
街中で着るのはスノーベアがお勧めだが旅をするならスポッテッドウルフが良いと勧められて購入した。
スノーベアは真っ白なので雪が降ってくると色が同化して同行者の姿を見失う事があるそうで斑点が目立つスポッテッドウルフが良いと言われた。
狼の方を試着してみたけど、十分すぎるくらい温かいし問題なさそうだ。
首都オレエストルに行くには東南東に進み、ワリエポドと言う街を経由して南下すれば到着すると教えて貰った。
ワリエポドまでは朝のうちに出発すれば夕方には到着するそうなので宿で過ごして出発した。
下って行くと思っていたけど、登って行ってるし雪も積もってる。
「雪道って綺麗だけど歩きにくいですね」
「道は広いらしいけど真ん中を歩くようにしよう、崖から落ちたら大変だから」
尾根に沿って軽く登って行っているが両脇に谷があるそうで真ん中を歩くことを忠告された。
聞いた話の通り夕方にはワリエポドの街へ着いた。
この距離がやたらと短いのは、雪道で馬車も無く危険なため街と街の間が短いのだそうだ。
宿に泊まり食堂へ行くと人間の冒険者パーティらしい3人が歌って騒いでいた。
普段なら五月蠅いなと思うのだろう、だけど歌っていた歌が僕の好みでカトリーヌも気に入っているようだ。
終わった時に拍手をしてしまったものだから絡まれてしまった。
「お、兄ちゃん。俺の歌が良かったか?パーティに所属してた世界中の歌を研究してる奴が作った歌だから良い歌だろ?」
「え……えぇ。どれも僕が好きな曲でした」
歌い手の声がもっと綺麗なら良かったんだけど、なんて言えない。
ん?世界中の歌を研究してるって言ってたな。
「世界中の歌を研究してるって事ですけど、大昔の言い伝えみたいな歌も詳しいんですか?」
「あぁ、歌を作った奴なら詳しいと思うぞ。世界中を回って先人が残した歌を研究していた奴だからな」
「良かったらその方を紹介して貰えませんか?」
「今はパーティを抜けてお偉いさんになってるが会いたいなら手紙位は書いてやるぞ。知っている歌の事なら喜んで話してくれるだろうよ」
お願いすると男はサラサラッと一筆書いて渡してくれた。
(お前に会って歌の事を聞きたいそうだ、時間があったら会ってやってくれ。ヒイロ)
ただの紙切れに書いただけなので文章が丸見えだ、ヒイロって言うのはこの男の名前だろう。
「どこへ行けば会えますか?」
「ガヴィメズの首都ゼラキューゼだが会えるかどうかの保証はないぞ。もし会えたらクレセントムーンのメンバーは元気にしていた、とだけ伝えてくれ」
「おいヒイロ、肝心の奴の名前を言ってないぞ。テイルって奴だ。今は族長様だぜ族長様」
「あんたら運が良かったな、テイルとは最近会ってないが俺たちの頼みなら多分、会ってくれると思うぞ」
夫人に歌を贈ったとは聞いていたけど、テイルが世界中の歌を研究していたとは知らなかった。
小人族の族長と面会が出来たら会いに行ってみよう。
「テイル様が冒険者だったのはお聞きしてましたが、詩歌に精通しているとは知りませんでしたわ」
「あいつは昔から変人だからな、変な意味じゃないぞ。やるって決めたら諦めないと言うか……」
冒険者パーティ、クレセントムーンの3人は懐かしむように話してくれた。




