乗合馬車の護衛が交代
用意されていた馬車は快適だ、街道が整備されているし魔物も居ない。
警備隊の姿は見ないけど魔物が居ないのはラルドがエリアに居る影響なのだろうか?
馬車に全員で乗っているが交代で1人は前方に乗り、魔物の気配には気を付けるようにしている。
「幻妖斎様が冒険者になったのは何故なんですか?」
雪村たちが冒険者になった理由を聞いて、ラエルが僕に質問してきた。
「僕は異世界から来たんだ、元の世界へ戻る情報を探すため冒険者になって旅をしてるんだよ」
最近はグリアにも慣れたし、知り合いも増え犯罪に巻き込まれる心配もないので異世界人という事は隠していない。
「そうなんですか。私に出来る事があれば協力したいのですが……」
「お父さんやお兄さん達に武器を作って貰えたし、ラエルさんのその気持ちだけでもうれしいよ」
魔物との遭遇も無いままエリアの境まで到着した。
検問所の兵士は相変わらず、やる気なく突っ立っているだけだ。
ミューマ大陸へと足を踏み入れた僕たちはマジアルまで転移魔法で移動する事にした。
「検問所の兵士って南側も無気力な奴らばっかなんだな。あれで務まるのが不思議だ」
雪村が言っていたが、北側の検問所も同じ感じのようだ。
マジアルまで転移して僕たちはロイドの店にラエルを送って行った。
ロイドは製作中で手が離せないようでコデルが対応してくれた。
聖魔戦争で使用した事を言うと、天と地の短刀を一度見せて欲しいと言うので渡すと隅々まで見ている。
「問題ないですね、オリハルコンなので折れる事は無いと思いますが不具合が出たら持ってきてください」
雪村と哲は良い機会なので装備品を購入するようでいろいろと見て回っている。
この後は数日滞在して準備をしてから東へ移動するそうだ。
シタールの演奏を聞きたかったが戻って来たことを知り合いに知らせて回るので後日と言われてしまった。
小人族のエリアに移動するため再度転移魔法をしようとした。
「ちょっと待ってください。エルバート族長にスピリエの宴に使者を派遣してくれたお礼状をお渡ししたいのです」
カトリーヌは用意しておいた書状を持って宮殿の門番に話しかける。
エルバート族長に取り次ごうとした門番を引き留め、アルベールから正式な使者が、まだ来ていない事を確認し書状だけ渡した。
披露の宴に他種族の来賓が来た際には2か月後くらいに正式な使者が礼状を持ってくるそうだ。
それより先にカトリーヌが面会してお礼を言ってしまうと儀礼上、困るのだと言う。
ただ、首都まで来ているので正式な使者の令状に添えて渡して欲しいとお願いしていた。
アドリンスで人間族長のルルドに会っているけど問題ないのかと思ったが大丈夫だそうだ。
あの面会は僕が望んだという事なのでライオネル家は関係が無い扱いになる。
そう言えば、面会の時にカトリーヌは、ほとんど族長と会話してなかった。
ルルドもその事は知っているので、あえて話題にしなかったのだろうとカトリーヌが教えてくれた。
人間領ガヴィメズの首都ゼラキューゼの前に転移してカトリーヌの入場審査待ちをしている。
この後は確か、北部から小人領へ行くのがお勧めとドワーフのエルバート族長が言っていたな。
街でいろいろ聞いてみると2つルートがある。
首都から北東の街メーパスから小人領の街クルベンへ入るルート。
この方法は時間が掛かるが最も安全で、すべて馬車で移動できる、小人領へ馬車で移動できる唯一の道。
それと首都から東の街ザリエヴから小人領の街バルエートへ入るルートもある。
この行き方はザリエヴの街からは馬車が使えず山道を歩く必要があるが体力に自信があれば北ルートよりも早く着く。
馬車なのに北回りの時間が掛かるのは道がつづら折になっているが山道で馬の疲労が貯まりやすく休憩も長く必要なためだ。
山道を歩くルートは曲がり道を少なくしているせいで勾配もきつく馬車が登れないが距離が短い。
体力には自信あるし冒険者らしく山道を通るルートで行く方が良いのかな?
つづら折りの山道をのんびり馬車で……って言うのも景色が楽しめそうだな。
「幻妖斎さま、山道を歩いて行きませんか?馬車移動ばかりで少し運動不足なのもありますし……」
カトリーヌが提案してきた。
確かに馬車移動が多いから運動不足気味なのかもしれない、聖魔戦争に参加してない彼女は特にそうだろうな。
東の街ザリエヴまでは馬車で移動し、小人領の街バルエートまでは山道を歩くルートに決めた。
ここでも門番に族長のテイルに渡す礼状を事情を説明して託していた。
時間も中途半端なので今日は宿泊して、乗合馬車で明日から移動する事にした。
翌日、乗合馬車の乗り場へ行くと問題が起きていた。
馬車の護衛依頼を受けていた冒険者が体調不良で来られなくなったそうで、このままでは馬車が出せないと言う。
代わりに依頼を受けようかとギルドへ行くと一足先に別の人が受けてくれていた。
乗り場へ戻ると僕たちを待ってくれていたようで、早く来るようにと呼ばれた。
馬車の横には見た事がある、黒づくめの服を身に纏った端正な顔立ちの青年が立っている。
「急遽、今回の護衛依頼を受けた。名前はロキと言う。ザリエヴの街まで責任を持って護衛すると約束しよう」
馬車へ乗り込む僕に向かって「また会ったな」とだけ言ってきた。
カトリーヌから知り合いなのかと聞かれたので、以前一度会った時の話をした。
「幻妖斎さまの評判も知れ渡って来てるんですね」
こんな事を言われたが、変な絡まれ方をされない事を祈るしかない。
移動を開始して2日目、魔物もあまり居なくて景色も落ち着いていて旅行って言う感じだ。
ロキと言う青年は黙々と任務をこなしている、と言っても弱い魔物しか出ていない。
急に馬車が止まったと思ったら前方にコカトリスが5体いるという事だ。
「5体を1人では難しいんじゃないですか?お手伝いしますよ」
「要らぬ心配だ。すぐ終わらせる、お前たちは馬車でじっとしていろ」
ゆっくりと魔物に近づいて行って剣を抜くと一瞬で5体を素早く切り倒してしまった。
あまりの強さに馬車の乗客から歓声が起こるほどだ。
「まるで幻妖斎さまが戦っているのを見るようでしたわ」
カトリーヌも驚いていた、確かにすごく強い。
彼の実力を見て皆が安心している。
夜の警戒も1人でやっているようだが寝なくて良いのか?
達人になると魔物の気配で起きる人も居ると聞いているので、そう言う人なんだろう。
3日目になった、今日の夕方には街に着くそうだ。
のんびりと馬車の旅を楽しんでいたがカトリーヌが魔物を発見したようだ。
チラッと確認したらヒポグリフが2体空を飛んでいる。
剣の腕は凄いが飛行系は流石に苦戦するだろう。
倒したことがある魔物だけど、かなりの速さで飛び回る。
「弓矢はありますか?剣士のあなたが飛行系にどう対応するんです?」
「使用する武器で相手の得手不得手を決めつけない事だな」
ヒポグリフの探知ギリギリ程度まで近寄ると手を敵に向けて延ばす。
手から高速の炎が二股に分かれてヒポグリフを燃やし消し炭になっている。
今の魔法って(ファイアブラスト)か?
威力がおかしい、あの魔法は中級程度の炎魔法で分裂も可能ではあるが、その分威力が落ちる。
少し離れていたので聞こえなかっただけかも知れないが……無詠唱だったよな?
「強いんですね、魔法まで使えるなんて驚きましたわ」
「俺は魔法も得意だ、手合わせしたいなら何時でもうけてやるが命の保証はないぞ」
カトリーヌは返事を聞いて驚いていた。
「戦闘直後で気が高ぶってるんだよ、それに護衛中の人に話したら駄目なんだったよね」
僕の言葉で納得はしたようだが、ちょっと高圧的すぎる。
後で少し文句を言っておこう。