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不死者が望む戻らない死  作者: 流幻
ミューマ大陸・人間の領地ガヴィメズ編
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ラエルの悩み

 退院が決まったという事は治ったという事だと思いたいがラエルは何か不安そうだ。

 もしかして自分の中ではまだ完治していない感覚なのだろうか。

「ラエルさん、体調があまり良くないんですか?」

 僕は思い切って聞いてみた。

 病み上がりで体力も落ちてるだろうから無理は良くない。

「あ、いえ……体調は問題ないんです。ちょっと悩んでいる事があって……相談に乗って貰えますか?」

 

 病室では落ち着かないので近くの広場で話す事にした。

「実は宮殿の演奏者になる事を迷ってるんです。もちろん選ばれるかは別問題としてです」

「宮殿の奏者になるのが夢じゃなかったの?何か心配事があるのかな?」


「実は――」

 そう言って彼女が話してくれた。

 体調も良くなり、許可を貰って療養所で自由に練習をしていた、彼女の演奏に多くの患者が癒されたそうだ。

 そこで熱心に聞いてくれていた小人族の男と出会う。

 自分の演奏を気に入ってくれている、そう思って楽譜通り丁寧に奏でていたそうだ。

 彼に言われた「今のお姉さんの演奏は綺麗だけど感情が無い」という言葉が棘のように心に刺さっている。

 宮殿の演奏家になるには譜面通り正確に演奏する事が求められる。

 感情を込めると譜面からズレてしまう事があるので今の自分には難しい。

 自分の夢は、宮殿の演奏家になって自分の演奏を多くの人に聞いて喜んで貰いたい、という事だ。

 しかし、感情が無いと言われると宮殿に入らず自分の感情をこめて自由に演奏する方が良いのではないか?

 彼女の悩みはそんな感じだ。


「お2人はどうしたら良いと思いますか?」

「私は宮殿の演奏家になった方が良いと思いますけど……」

 カトリーヌは自信なさげに言うと僕の方を見て来た、ラエルも真剣な眼差しでこっちを見ている。

「結論から言うと、宮殿演奏家になる方が良いと思う。ラエルさんの夢がずっと変わらないのならだけどね」


 まだ迷っているという事は顔で分かる。

「音楽家の事はよく分からないから的外れな事を言うかも知れないけど、ちょっと聞いて。冒険者の話なんだけど……」

 軽く頷いてくれた。

「冒険者は1人だと自由にできる、行き先も休憩も、自分の命を顧みず無謀な戦いや行動でさえもね」

「パーティを組むとお互い欠点を補ったりして出来る事は増える。でも自由度は減るんだよ」

「何故ですか?冒険者は自由に動けますよね」

「魔物と戦う時、個人が好きに動くと味方に被害が出る事もある。だから決まり事や形式と言う戦闘の形が出来てくる。高ランクになる程決まりは多くて、それから逸脱するとミスと判断されて他者がサポートに入る事もあるんだよ」

「なるほど、そう言うものなんですね」

「移動中に分かれ道があって、目的地は左で確定している、でも自分はワクワクするから右に行きたい。こんな時も右への移動は諦める事が多くなる。これも制約と言えば制約だね」

「それは分かります」

「でも、長い時間を共にしてお互いの事が分かると少し変化はあるんだ。戦いだとお互いのクセとかも分かって来るからサポート範囲も変わってきたりするし、分かれ道でも『たまには右に行ってみるか』とか言いやすくなったりする。パーティが成熟するって言う感じだね」


「えっと……言っている意味がよく分からなくて……すいません」

 やっぱり通じてないか、説明下手だから仕方が無いんだけど。

「冒険者を演奏家に変えて考えてみようか。演奏家は1人なら好きな場所で好きな時に好きなように演奏できるよね、もちろん周りの迷惑は考えないとダメだけど」

 小さく頷いた、ここまでは通じてるな。

「音楽隊に入るといろんな楽器と演奏して、表現の幅や音数が増えて豪華になるよね。でも自由に演奏は出来ないと思う。全員がその日の気分で音の長さや強弱を変えると変になるよね?そのために楽譜と言う形があって、それを守るのが大切なんじゃないかな?」

 目を閉じて聞いているので、そのまま話を続けた。

「同じ時間を過ごして、会話して演奏の癖や表現法が分かるとそれに合わせやすくなる。例えば『もっといろんな人に聞いて貰いたい』って言いやすくなって、賛同者も出るかもしれない」

「ラエルさんの演奏は素敵だよ、その上で多くの人に聞いて貰うために(宮殿演奏家)と言う肩書は大きいと思うんだ。それに宮殿演奏家って冒険者ならAランクパーティみたいな感じでしょ。仲間と切磋琢磨も出来るし最高の仲間を見つける良い環境じゃないかな」

 一言も話さないけど……やっぱり見当違いの事を言ってるのかな。


 型にはまりたくない!という自由奔放な性格とは思えないので個人的な意見を言ったけど後は本人が決める事だ。

 兄のロイドとコデルはコツコツと仕事をするキッチリした性格だ、頑固なイリジーンに似てなければ良いんだけど。

 昔、読んだ本に(女性が相談して来るときは答えが決まってるから説教じみた意見はNG!)って書いていたのを思い出した。


「おーい、なにしてるんだ?」

 哲とシンが近づいて来た、雪村は宿で寝ているので2人で買い物に来たそうだ。

 ラエルに紹介すると勇者パーティ雪月花のメンバーだとすぐに分かったようで驚いていた。

 マジアルまで護衛していくので一緒に来ないかと聞いたら2人は即了承してくれた。

「リーダーの雪村様にお聞きしなくても良いんですか?」

 パーティリーダーは雪村という事になっているから哲とシンが相談無しで決定して不安そうだ。

「他の仕事は入ってないし問題ないよ。あいつに聞きに行ったら逆に怒られると思うぞ」

「私たちは『困ってる人を助けて笑って貰いたい』って思いが一致してるからね」

「そうだよな、俺たちが出来る事は限られてるんだけどさ」

 2人はまだ買い物があるようで街中へ消えて行った。


「お話しできて良かったです、ありがとうございました」

 ラエルもそう言うと療養所へ戻って行った。

 あれ?そう言えばピーフェが居ないな。

 聖魔戦争の時は最奥に居て戦わないと言ってたので終わるまでは帰ってこれないのかな?

 


 翌日、出発のために6人で乗合馬車の乗り場で待機しているとラルドが現れて僕だけが別の場所へ呼ばれた。

 聖魔戦争の事で何か言われるのかなと思っていたが半分は当たっていた。

「1000体は倒せなかったようだな、次回は半年後位に開催されそうだから準備しておけ」

 半年後か、結構すぐだな。

「それと最初に会った時から気になっていたのだが、私以外の神と会ったことがあるか?」

「ウェイズとシュバイツは神様じゃないんですよね?それなら無いです。」

「そうか……」

 正直言うとラルドも神と言われなければ人間の女性に見える、人型をしている他の神とすれ違っても気が付いていない可能性はあるけど……。

 

 みんなの所へ戻ると今度はフォーゲルが待っていて別の場所へと案内された。

 そこに用意されていたのは大きめの専用馬車でエリアの境まで送ってくれると言う。

「治療が終わって帰る道中で怪我でもされたら困る、護衛もつけようと思ったが勇者パーティと幻妖斎が居るなら邪魔になるだけだろう。任せるぞ」

 セントス内部はほとんど魔物が居ないので問題ない。

「フォーゲル様、受けたご恩は一生忘れません」

「お前が感謝するのは俺ではない、治療した職員だ。そして心配している家族とお前の存在を教えた幻妖斎。誰が欠けてもお前は助からなかった。自分の幸運に感謝しろ」

 深くお辞儀をするラエルの肩に手を置いて優しく語り掛けていた。

「フッ、毎日聞こえていた美しいシタールの音色が聞こえなくなるのは残念だ」

 フォーゲルは振り返り立ち去って行った。


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