第9話 姉
「久しぶりね、姫乃。美人になったね」
「あ、ありがとうございます。香織さんも……」
「お世辞はいらないから」
俺と姫乃、そして姉の香織はリビングでコーヒーを飲むことになった。母は出かけたらしい。
香織は俺より4つ上の大学生。今年から一人暮らしをしているが、近くに住んでいるのでたびたび帰ってきていた。ショートカットで性格は男勝り。高校時代は生徒会の副会長をしていた。
姫乃は俺の家に来るのは久しぶりなので、姉に会うのも久しぶりだ。
「で、圭の部屋で2人で何してたのかな?」
「何もしてません。ケーキ食べてただけで……」
「そうだよ」
「ふーん」
誰にでも遠慮が無い姫乃も香織には弱い。幼い頃から三人で遊んでいたが4つ上の香織がいつもリーダーだった。子どもにとって4つ上は大きな違いだ。香織が高校生になっても俺たちは小学生。たまにしか会わなくなると、さらに年上感が増し、いつしか姫乃は敬語で話すようになっていた。
「で、2人付き合いだしたの?」
「付き合ってねーよ」
「はい、まだ付き合ってません」
「まだねえ……」
香織はコーヒーを飲みながら言う。
「姫乃、あんたも拗らせてるねえ」
「こ、こじらせてなんて……」
「こだわりとか捨てて自由に生きたら?」
「そ、そういうわけには……」
「後悔しても遅いよ」
「……でも」
「ま、姫乃の人生だから姫乃の好きにした方がいいけどね」
「……」
姫乃は黙って下を向いた。姫乃は香織が苦手というわけではない。むしろ本物の姉のように慕っている。悩みも相談しているようだ。だから香織は姫乃についていろいろ知っている。俺が知らないようなことも。
「圭もしゃきっとしなさい。相変わらず、ひねくれて」
「なんだよ。俺はひねくれてなんかない」
「そんなことだから姫乃ちゃんとつきあえないのよ」
「!! うるさいなあ。姉貴にそんなこと言われる筋合い無いだろ」
「あ、傷えぐっちゃった? ごめん、ごめん」
「……」
「応援はしてるから。何かあったら相談しなさいよ」
「しないよ」
「まったく、ひねくれてる。じゃ、行くから」
香織は荷物を取りに戻っただけのようだ。
すぐに出て行った。
「香織さん、なんだか大人になっちゃった感じがしたね」
「そうか? 俺はいつも会ってるから変わらないけど」
「で、香織さんに相談するの?」
「しないったら」
「そっか。あんまりしてもらったら困るかな」
「なんでだよ」
「私の弱点、いろいろ知ってるからね」
「へぇー」
「じゃ、私も帰るね」
「送るよ」
「大丈夫。まだ明るいし」
姫乃は帰って行った。
弱点ねえ。そこを突けばこの状況も打開できるのだろうか。少し気になった。




