第5話 テラス
俺と姫乃がフライドポテトと飲み物を買ってバスセンターの2階テラスに行く。ここは木々も植えられ、椅子と細いテーブルがある。ちょっと何か買って食べるにはいい場所だ。
俺たちが行くと、そこには先客が居た。
「あれ? 佐原君? それに姫乃ちゃんも」
「よう。お前達もここか」
永井巧とその恋人の福原里美だ。
「相変わらず仲いいな。これで付き合ってないんだから」
永井が俺たちに言う。
「何よ。幼馴染みで親友なんだからいいでしょ」
姫乃が反論する。
「まあまあ、いろいろあるのよ、女子には」
福原が言ってきた。
「だからって、高校生活も長くないんだぞ。恋人として過ごせるかどうかって大事だと思うが」
永井が福原に言う。
「でも、佐原君と姫乃ちゃんだって結局私たちと同じことしてるじゃん」
「そうだけど、気持ちが違うんだよ、気持ちが」
俺と姫乃のことで永井と福原が言い合い始めた。
「おい、喧嘩するなよ」
「「誰のせいだと思ってるんだ(のよ)!」」
永井と福原は綺麗にシンクロして俺に言ってきた。
「すまん、すまん。俺もお前達に喧嘩させないように頑張るから」
俺がそう言うと永井は急にスマホを取り出した。
「……そうか、一週間後だな」
カレンダーを見ていたようだ。
「うん」
「何が? あー、1日ね」
福原が言う。そうだ、おれは毎月1日に告白している。それがもう一週間後に迫っていた。
「あー、あれね。頑張ってね」
姫乃が人ごとのように、俺に言ってきた。まったく……
「よし、じゃあ今回は俺たちが協力してやるから」
「うん、うん。私も」
「え!?」
永井と福原の言葉に俺は2人を見た。
「まあ、まかせておけって。いいだろ?」
「よくわからないけど、協力してくれるんなら嬉しいけど」
「よし、そうと決まれば作戦会議だな」
「うん、姫乃ちゃん、後で佐原君からこれまでの告白事情とか聞いちゃっていいかな?」
福原が姫乃に聞いた。
「え? 別にいいけど」
「ありがと。私たちも告白に協力するから結果とかも知りたいんだけど、それもいい?」
「うん、圭が話したい分にはいいわよ。私も他の人に言っちゃうことよくあるし」
姫乃は今日の教室のように告白されたことをさらっと話すことがよくある。
「ありがと! じゃあ、私たちは先に作戦会議してるから。またね!」
そう言って去って行った。
「はあ。なんか面倒くさいこと考えてきそうで気が重いな」
「なんでよ。いい友達じゃない。圭のことを親身になって考えてくれて」
「お前のことでもあるんだからな」
「そうだっけ? 私は知らない」
姫乃は何のことか、とぼけた。こいつは1日が近づいてきても告白について何か言ってきたりすることは無い。まったく知らなかったという顔で告白を受けている。もちろん、毎月1日に告白していることは意識しているが、その日が近づいてくると気がつかないフリをし出す。
それにしても次の告白はどうしよう。実を言うとまったく決めていなかった。いろいろと考えてはいる。しかし、過去二年間にずっと失敗してきて、新たな策はもう無いに等しかった。だから、永井と福原が何か考えてくれるのはありがたい。
だが、やりたくないことをやらされるかもしれないのは面倒だ。それでも、成功すればいいが、俺には成功のパターンがもう思い浮かばなくなっていた。
「何よ。暗い顔して」
「まあ、ちょっと将来を考えていただけだ」
「将来? 圭も考えたりするんだ」
「当たり前だろ」
「それで暗くなってたの? 安心してよ。大丈夫だから」
姫乃が言う。
大丈夫ねえ。俺には、次の告白が大丈夫とは思えなかった。