第35話 11月2日
翌日の朝、家を出ようとしたら姫乃が俺の家に来た。
「圭、おはよう」
「おはよう、姫乃。どうした?」
「とりあえずのご挨拶に来たのよ」
「ご挨拶?」
姫乃は家に上がると、俺の父親と母親の前でお辞儀をした。
「おじさま、おばさま、おはようございます」
「お、おはよう」
「おはよう、姫乃ちゃん。今日はどうしたの?」
「はい、私、圭の婚約者となりましたのでご挨拶に来ました」
「「婚約者!?」」
「はい、聞いてませんか?」
「圭、どういうこと?」
「昨日、将来結婚しようって約束したんだ」
「あら、そうなの。それならそうと早く言いなさい、まったく」
「俺は後でちゃんと言おうと思ってたから」
「姫乃ちゃん、ありがとね、わざわざ来てくれて」
「いえ、これからは毎日来たいと思っていますので」
「毎日?」
「うん。これからは堂々と一緒に学校行ってもいいでしょ? 婚約者だし」
「そりゃ、そうだけど」
「姫乃ちゃん、圭をもらってくれてほんとありがとうね。姫乃ちゃんなら安心よ」
「ありがとうございます」
「もうそろそろ出ないと。いくぞ」
「失礼します」
「いってらっしゃい!」
俺たちは家を出た。
「ほんとに毎日来るのか?」
「うん。迷惑だった?」
「いや……嬉しいけど。大変じゃ無いか?」
「大丈夫よ、婚約者だもん」
姫乃はいつになく上機嫌だ。
◇◇◇
学校に着き、俺と姫乃が一緒に教室に入るとそれだけで取り巻き達が騒ぎ出した。
「姫乃ちゃん、昨日も告白されたの?」
「うーん、昨日はちょっと違うかな」
「え、違うって?」
「ふふーん、じゃーん」
姫乃は左手の薬指を見せる。
「え、それって……」
「そう、圭と結婚する約束したの。婚約者ってやつね」
「「「ええーーー!!」」」
取り巻き達は過去最高級に騒ぎ出した。
他の生徒も驚いて姫乃を見ている。
「佐原君、ほんとなの?」
中川が聞いてきた。
「圭、あなたも見せて」
姫乃が俺に言ってくる。
「はあ?」
「早く」
仕方ない。俺は左手を見せた。
「「「キャーーー!!」」」
取り巻き達が歓声を上げる。
「で、でも、なんで? 告白断ってたのに急に婚約って」
中川が姫乃に聞く。
「うーん、付き合うってよりもそっちの方が私たちの関係にはふさわしいかなって」
「そ、そうなんだ」
「うん。だって、ずっと一緒に居たいでしょ?」
「そっかあ」
取り巻き達は納得していた。とりあえず、ほっとこう。
そこに永井と福原、それに内田さんが来た。
「佐原君、おめでとう!」
「おめでとう!」
「よかったな」
「おう、ありがとう」
「二宮さんもすっごく上機嫌ね」
「ああ」
「にらまれずに済みそう」
内田さんが言う。
「しばらくは大丈夫だけど、迷惑掛けるときもあるかも」
「そっか。……私も早く新しい彼氏探さなきゃ」
「よし、俺が協力してやる。新告白作戦会議」
「私は自分でやるからいい。でも、相談はするかもね」
「「「まかせろ」」」
次回で最終話となります。
 




