第11話 6月1日
そして、6月1日の朝になった。告白作戦会議のグループに永井からメッセージが届く。
永井『予定通り作戦を開始せよ』
佐原『了解』
俺はいつも通り家を出た。洗馬橋にさしかかると姫乃がやってくるのが見えた。
「おはよう、圭」
「姫乃、おはよう」
「圭、眠そうね」
「ああ、昨日ちょっと本読んでたからな」
「しっかり寝ないと、背伸び無いよ」
「もう伸びないだろ、子どもじゃ無いんだから」
「まだまだ伸びるよ」
姫乃はいつもと変わりが無い。俺は少し緊張していた。告白しないことに緊張しているというのもおかしな話だが。
学校に着くと永井が声を掛けてくる。
「……してないよな」
「してねーよ。朝からするか」
「前にしたって言ってただろ」
「あの一回だけだ」
午前の授業が終わりお昼休みになる。姫乃たちは相変わらず騒がしいが俺は一人で食べる。お昼休みの終わり頃、福原が俺に話しかけてくる。
「してないよね」
「だから、してないって」
「よろしい」
そして、放課後。俺はいつものように姫乃と一緒に帰る。
告白作戦会議のグループに永井からメッセージが届いた。俺はチラッと見る。
永井『作戦も大詰めだ。くれぐれも間違いの無いように』
まったく、うるさいやつらだ。俺は返事もせず、姫乃のことに集中した。
帰り道、いつもよりも話すことは少ない。姫乃は当日に告白について何か言ってくることは過去に一度も無かった。だから、今日も告白については一切触れない。一見すると、何事も無い普通の帰り道だが、やけに緊張感がある。
そして、洗馬橋を越え、2人がいつも別れている交差点にさしかかった。俺は何事も無かったかのようにできるだけ自然に言った。
「じゃあ、また明日な」
そして、返答を聞かず、姫乃に背を向け歩き出した。
姫乃は何も言わない。そのまま俺は歩いて行く。
結局、姫乃から何も言われることは無く、俺は家に辿り着いた。
佐原『作戦は何事も無く終了した』
告白作戦会議のグループに報告する。
永井『反応はあったか?』
佐原『何も無し』
永井『作成失敗と認める。次の作戦まで待機せよ』
なんだよ、1日無駄にしただけじゃないか。
……だが、1日はまだ終わっていなかった。
 




