表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/36

第1話 4月1日

※ざまぁはありませんので1話の時点で不快であれば読まれないことをお勧めします。

 高校に入学した4月の1日。俺、佐原圭さはらけいは、幼馴染みである二宮姫乃にのみやひめのを朝から呼び出していた。場所は熊本駅にほど近い坪井川沿いの広場。図書館の裏にあり、人目に付かない場所だ。


「こんなところに呼び出して何?」


 姫乃は言った。俺と姫乃は小さい頃からの仲だ。家は少し離れているが近所の公園で遊ぶようになり、家族ぐるみの付き合いもある。


 成長した姫乃は誰から見ても美人。長身でスタイルもいいし、明るい性格でいつもクラスの中心に居る。中学の頃からモデルのような仕事もやっている。それに対し、俺は至って普通の男子に過ぎない。背も姫乃と大して変わらなかった。だが、俺は自分の気持ちに嘘をつけなくなっていた。


「分かってるだろ」


「何よ。言わないと分かんないわよ」


 姫乃は自慢の長い髪をいじりながら言った。


「……姫乃、俺はお前が好きだ。付き合ってくれ」


 俺は勇気を出して言った。


「とりあえず聞くけど、今日、エイプリルフールよね」


 姫乃が確認してきた。


「分かってる。でも、嘘の告白じゃないぞ。マジなやつだ。分かってるだろ」


「そうね……」


 姫乃はしばらく黙っていた。が、急に頭を下げた。


「ごめんなさい」


 はぁ、やっぱりか。俺は何も言えなかった。それにしても、今の間はなんなんだ、まったく。


 やがて顔を上げた姫乃は言った。


「じゃ、ランチ行こっか。お腹空いたよ」


 俺の手を取り歩いて行く。


「お前なあ、今、俺を振っただろ。すぐ切り替えすぎだ」


「だって、毎月のことだから、もう慣れちゃった」


「そりゃ、そうだけどなあ」


 実は俺は毎月1日に姫乃に告白している。1日と言うことに特に意味は無い。最初に告白したのが1日だっただけだ。振られて落ち込んだ俺に、姫乃は「次に告白したら付き合うかもしれないよ」と言ってきた。それを聞いて、ちょうど一ヶ月経った次の月の1日に再度告白してみたのだ。以来、ずっと毎月1日に告白して、全て振られている。


「それに、朝から告白ってある? 普通、夕方とか夜、デートの最後でしょ」


 姫乃が文句を言ってきた。


「今までずっとそれで失敗してきたから変えたんだよ。それに、成功したら恋人としてデートできて楽しいかな、と」


「別に今のままでも私は楽しいけど」


「はぁ……俺は振られてショックなんだけど」


 俺は姫乃の手をふりほどき、立ち止まった。


「そんなにいじけないでよ。別に今後絶対、圭とつきあえないと言ってるわけじゃないんだから。今はつきあえないけど、将来はわかんないよ」


 姫乃はいつもコレだ。今はつきあえないが、将来の可能性をほのめかしてくる。俺はどうしてもそれにすがってしまう。


「はぁ。じゃあ、どこに行く?」


「うーん、近くだし駅ビルかな」


 ここから駅ビルはすぐそこだ。俺たちは歩き出した。


「……今日はおごらないからな」


「なんでよ。いつも断っても払うくせに……。私のこと、好きなんでしょ?」


 これを言われると俺は弱い。だが、今日は反撃を試みる。


「俺はフラれたんだぞ。お前は恋人じゃ無い」


「あー、そうだったわね。じゃあ、逆に私がおごるか」


「は? 珍しい。やめとけ」


「何よ。これでもちょっとは悪いって思ってるわよ……」


 そ、そうなんだ……。いつも強気な姫乃がこういうことを言うのは初めてだな。


「お前……、俺のことどう思ってるんだ?」


 思わず聞いてしまう。


「うーん、腐れ縁の友達以上恋人未満ってやつかな」


 納得してしまう。俺と姫乃は確かにそういう関係だな。


「……ま、今日は俺がおごるよ。俺が呼び出したんだしな」


 少し元気が出てきた俺はそういった。


「じゃ、赤牛のステーキね」


「は? お前、容赦ないな」


「はい、エイプリルフール。すぐ騙されるんだから」


「うざ……」


 姫乃はなぜか機嫌が良さそうだった。



※ざまぁはありませんのでこの時点で不快であれば読まれないことをお勧めします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ