じゃんがり太郎の置き土産
今回は安全安心な“しろかえで”です(^O^)/
ついさっきまで、カリカリとヒマワリの種をむいていたじゃんがり太郎はピクリとも動きません。
ああ、天にめされてしまったのね……
なつみちゃんの目からなみだがぽろぽろこぼれました。
両手ですくうようにしてそっとだきあげたじゃんがり太郎は手にヒマワリの種を持ったままでした。
ぷっくりとふくらんだほっぺもきっとヒマワリの種がつめこまれているのでしょう。
だからなつみちゃんは花だんのチューリップの花のわきにじゃんがり太郎をうめてあげました。
チューリップの花と入れかわるようにめを出したふたばはグングンと育っていき、やがて大きな花をさかせました。
夏のひざしをいっぱいあびたもうひとつの太陽!!
じゃんがり太郎のヒマワリは花だんだけではなく、なつみちゃんの心の中にもさんさんとかがやくのでした。
おしまい
市のテニスコートの脇にある文化会館の多目的スペースでは毎月第2土曜日に手作り絵本の読み聞かせサークルを行なっていて、私も自作の絵本を持ち込んでいつも参加していた。
今、目の前に座っている真っ黒少女の陽菜ちゃんはテニスバッグをギューっと抱きしめたまま絵本の読み聞かせに一心に耳を傾けてくれていた。
「じゃんがり太郎はヒマワリになったの?」
「そうねえ~ じゃんがり太郎はヒマワリが大好きだから、他の子達にもヒマワリの種をプレゼントしたいんじゃないのかな」
「いいなあ、私もヒマワリの種、欲しいなあ~」
「陽菜ちゃんもじゃんがり太郎みたいに食いしん坊なの?」
「えっ?! ちがうよ~!! 私は人間だもん!」
「あら?! 人間だってヒマワリの種を普通に食べてるよ! ヨーグルトに入れたり炒めたりするの。あと、絞ると油も採れるのよ!サンフラワー油って言うの!
まあ、じゃんがり太郎の種は油が採れるほどの量はないんだけどね」
私はトートーからピンク色のタッパーを取り出して陽菜ちゃんの前でふたを開けて見せた。
「わあ!! ヒマワリの種だ! お花の形のままだ!!」
「そうよ! これは本当にじゃんがり太郎のヒマワリの種! お姉さんのお部屋のベランダで育てたからそんなに大きくはならなかったの!」
「それって!! じゃんがり太郎は本当に居たの?!」
「本当に居たよ!」
「じゃあ!なつみちゃんって?!」
「私の名前は加藤菜摘と言うのよ! じゃんがり太郎と過ごした2年ちょっとは……本当に楽しかったわ。その思い出を大切にしたいから絵本にしたの!!」
私は……自分の絵本や“じゃんがり太郎の思い出”に興味を示してくれるのが嬉しくて、つい調子に乗ってしまったのだろうか……何だか陽菜ちゃんが黙り込んでしまった。
本当の事を言うとじゃんがり太郎と出会ったのは、付き合っていたカレシから二股掛けられているのが分かって、カレシのマンションから泣きながら帰って来る道すがら……ペットショップでSaleになっていたじゃんがり太郎とガラス越しに目が合ったのだ。
でもそんな現実まで綺麗に変えてしまえる程、じゃんがり太郎との日々は素敵な思い出になった。
「……あのね!お姉さん! お願いがあるの!」
言いよどみながらも何か切実な顔をしている陽菜ちゃんの“お願い”とはいったい何だろう??
じゃんがり太郎の種が欲しいのなら、今すぐあげられるけど……
「どんな事?」
「あのね! 今、私の家族はお兄と妹の心春しか居ないの! 私もお姉さんみたいに……おかあさんの話も心春にしてあげたいんだけど、私も小さかったし、おかあさんの事はあまり覚えていないの! だから……」
「だから?」
「ウチのお兄からおかあさんの話を聞いて、それを絵本にして欲しいの!! そうしたら心春にもおかあさんの素敵な思い出ができると思うの! だからどうか!!お願いします!!」
テニス焼けの真っ黒な腕をカーペットに置いてガバッ!とお辞儀する陽菜ちゃんの肩に手を置いて私は語り掛けた。
「分かった! おかあさんのお話をお聞きしたいからお兄さんに会わせて!!」
パワフルかつ可愛いこの天使の“お願い”に私はとても驚かされたのだけど、二つ返事でOKしていた。
そしてその“お願い”は私にとても素敵な時間をもたらせてくれた……
あれから7年が経ち、小3と小1だった二人の可愛い“妹”は高校生と中学生
「お姉は座って“じゃんがり太郎”の花壇づくりを監督してて!!」「そうだよ!お腹の赤ちゃんに何かあったら大変!! 力仕事ならまずお兄をこき使わなきゃ!!」
と大変な小姑ぶりだ。
肩を竦めながらも満面の笑みの大樹さんは私の為に、カーキ色のリゾートチェアを広げてくれて……私を座らせながらほっぺに軽くキスをした。
もちろん“小姑”達がそれを見逃す筈はなく……私達はまたまたキャイキャイと弄られる仕儀となった。
何気なく頭に浮かんだ『じゃんがり太郎』という言葉から思い付きました。
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