ダンジョンに監視カメラを設置したら大変なことが分かった。
迷宮系ダンジョン「ミノミノの庭」、トラップ等は少ないが非常に迷い易く、奥へ行くほど帰還の可能性が低いダンジョンであった。
ダンジョンマスターであるミノタウロスのミノミノは年々冒険者の来訪が減少していることを憂慮し、ダンジョンコンサルタントにダンジョンの改善を依頼した。
「先ずは状況の確認をしましょう。」
コンサルタントに促され、ミノミノはダンジョンに監視カメラというダンジョン魔法を各所に設置することにした。
「野糞率高過ぎないか。」
ミノミノが最初に感じたことは、ダンジョンに来訪した冒険者の多くがトイレを使わず野糞していることだった。
どの冒険者も周りキョロキョロ確認した後、ズボンを下げ野糞するのだ。
「トイレの数が少ないのかもしれませんね。」
ダンジョンコンサルタントは冷静に分析する。
ダンジョンにはトイレも設置されているが、迷い易いダンジョンだ。
我慢できずに野糞をしてしまうのだろう。
薔薇園を巨大化した様なダンジョンなので、地面は土と草だ。
野糞しても大地に還るから問題ない。
室内型のダンジョンでは糞尿は自動で吸収される機能があることをダンジョンコンサルタントから説明されるが、必要な機能だろう。
もしも無ければ、糞尿の臭いで誰も来ないだろう。
「ゴミのポイ捨ては止めい。」
次にミノミノは、冒険者がダンジョン内に食料の包装や壊れた装備などを投機することだ。
死亡した冒険者の装備が宝箱に配置されることもあるが、ゴミはゴミでしかない。
「当方ではゴミの引き取りを行っております。」
ダンジョンコンサルタントは他のダンジョンでもゴミの不法投棄が問題になっており、それらの回収を委託されているそうだ。
壊れた装備などは修理すれば再度使用できるものも多く、ダンジョンマスターに販売しているそうだ。
廃品回収からの中古販売ビジネスが成り立っていることにミノミノは感心したが、冒険者のモラルに危機感を抱いた。
いつか、ダンジョンがゴミ捨て場として見られる未来を想像したからだ。
「ダンジョンでおっぱじめるな。」
不人気ダンジョンであるからか、冒険者同士がダンジョン内で鉢合わせすることはほぼ無い。
それを言うことにカップルパーティーはダンジョン内なのにも関わらず、おっぱじめるのである。
真っ裸な状態でモンスターと遭遇したらどうするのか心配になってしまう。
「実は隠しカメラものとして、冒険者同士のAV作品として人気があるジャンルです。」
ダンジョンコンサルタントは、監視カメラの魔法の映像を録画出来る魔法が開発され、一つのジャンルとして確立されていることを説明した。
隠しカメラものはそれっぽいだけで本当に合意なくカメラをまわされているなら犯罪だ。
ミノミノは目の前のダンジョンコンサルタントを警察に突き出すべきか考えてしまう。
「人間同士の撮影であるなら合法となります。」
ミノミノの考えを見抜いてか、ダンジョンコンサルタントは慌てて弁明する。
魔界の法律が改正され、魔物が映らない人間同士の行為であれば合法となったそうだ。
一体、幾らの金がこの法律改正の為に費やされたのか。
魔界の行政の闇は深いとミノミノはため息を吐いた。
「違法行為する為の場所となっている。」
それから映るのは怪しい薬の売買、私刑、密談など碌でもないものばかりが映る。
「不人気で人気の無いダンジョン。証拠はダンジョンが呑み込んでくれるのだから違法行為にはうってつけですね。」
ダンジョンコンサルタントは冷静に分析する。
「どうすれば良い。」
ミノミノは真剣にダンジョンコンサルタントに聞いた。
「分かりました。お任せください。」
ダンジョンコンサルタントは笑顔で応えた。
「不人気ダンジョン、観光ダンジョンとして生まれ変わる。」
ミノミノの庭に近い街では、こう書かれた見出しの記事が出回った。
「迷宮化したダンジョンが、シンプルに刷新され。宝箱ではなくベンチや噴水が設置される。」
「モンスターは来訪者から命の搾取ではなく、食品やアクセサリーなどで金品を搾取する。」
「来訪者は千パーセントアップ。カップルの憩いの場に生まれ変わる。」
「もはやダンジョンじゃない。」
冒険者の突っ込みが青空に響いた。