第一話
「はい、こちら悪党組織!事件ですか?事故ですか?」
「事件を頼む」
「はい。それでは全容をお聞かせください」
ここは悪党組織。その本部。
ここにいる者は、全員が死刑囚。
ただし、少し更生されている。
僕も、そのうちの一人だ。
コールセンターの仕事をしている。
どういう仕事かというと。
まず、「いつ」「どこで」「なにを」すればいいのかを聞く。
そして、その対象者。ヒーローの名前を聞いて、予約を取る。
そんな感じだ。
「よーう、孝成。元気してるか?」
「うわっ!急に来るなよ。びっくりするなぁ。あと、本名で呼んじゃだめだぞ」
「すまんすまん」
この巨漢の男のコードネームは「ブルダリティー」。
能力は、「超再生能力」。
再生能力の上位互換で、腕を切られても数秒で再生することができる。
「で、また依頼か?」
「うん。しかも、君指名。忙しいねぇ、エリートは」
「はっはっは。また稼がせてもらいますよ」
羨ましいなあ。
あ、死刑囚でも給料とかはあるよ。
安月給だけど。
「お前も結構稼いでるんじゃねえのか?未知数さんよ」
「その話はやめてよ。人を殺した数なんて、自慢材料にはならないだろ」
「すまんすまん。すまんの2乗」
「なんだそりゃ」
僕は、殺人罪で死刑になった。
色々と事情はあるんだけど、それはまたの機会。
「それはそうと。どんな依頼だったんだ?」
「うん。『サウザンドの救出劇』だってさ」
「あいつか。最近調子に乗ってるよな。握りつぶしてやりたいぜ」
「やめろやめろ。僕たちの仕事は、ヒーローを目立たせることだろう。目的を忘れるなよ」
「でもよぉ・・・」
「言い訳しない!」
「へーい」
僕たちは利用されるために生かされていると言っても過言ではない。
僕たちは、ヒーローを目立たせるために利用されているのだ。
だからこそ、僕たちは義務を全うしなければいけない。
僕たちは、世間の飼い犬なのだ。
「で、俺はどういう悪党を演じればいいんだ?」
「観光バスをジャック。そのあと、身代金を要求。サウザンドがくるまでなんの取引にも応じずに、立て篭もり。サウザンドが来たら、戦う。そして、負けて逃げる、だってさ」
「こりゃまた、ありきたりだな」
「グループ犯行だってさ」
「ほうほう」
日程は、8月13日の金曜日。
・・・僕の誕生日じゃないですか。
「ガッハッハッハ!面白え!傑作だ!」
「他人事だからって、そんなに笑うことないだろう」
「お前ってつくづく不運だよな。確か、去年も仕事入ってたろ」
「別に良いよ、祝ってくれる人なんていないし」
「それはそれでまた不幸だな」
彼女欲しい。
死刑囚を愛してくれる人がいるのかどうか分からないけど。
『ブルダリティー、ブルダリティー。聞こえてるか、どうぞ』
「こちらブルダリティー。聞こえたているぞ、どうぞ」
ブルダリティーが持っている無線から、声が聞こえる。
『お前、どこほっつき歩いてるんだよ。そろそろ時間だぞ。早く戻って来い』
「げっ!やべ、サボってたんだった」
「サボるなよ・・・」
僕は、自分のスマホを取り出してとある場所に連絡を入れる。
「もしもし」
「聞こえておるぞよ。お主から連絡があると言うことは、またか?」
僕が連絡したのは、開発部の部長。
『マシリアン』という人だ。
年齢不詳、女性。保有能力は、「知覚演算能力加速」。
1秒で、4桁以上の掛け算の計算ができるらしい。
あと、本人が気にしているのから秘密なのだが、身長低くて、胸板ぺったんこ。
年齢を知っている奴らからは、「外見ロリババア」って陰で言われてる。
「あいつに貸したバイクや、車が帰ってきた試しがないのじゃが?」
「すみません。なにぶん、不良なもので。今度、実験に付き合ってあげるので、お願いします」
「・・・・・・。ま、まあ、今回は良いじゃろう。新作のバイクを貸してやるわい」
「ありがとう。恩にきるよ」
「別に良いのじゃが、・・・忘れるなよ?」
「大丈夫。しっかりとブルダリティーも連れて行くから」
「分かってるなら良いんじゃ。それじゃ、よろしく頼んだぞよ」
「良いわけねえだろ!この、ロリbba・・・」
ブルダリティーが最後まで言い切る前に電話を切った。
「お前、勝手になんてことを約束したんだよ!」
「自業自得だろ。ほら、バイクが来てるぞ。行って来い!」
「お前、帰ってきたら絶対しばく!」
ブルダリティーは、出入り口に走っていった。
ブルダリティーの姿が消えてから少しした後、何かが凄い勢いで何かにぶつかる音と、絶叫が聞こえてきた。
それに対して、僕は気にせず仕事を続けたのだった。