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私はモブです。事件はやっぱりおきます

連続更新しています。よろしくお願いします。

〈ルーカス視点〉



僕は閃き、兄上に追いつく手前からスピードを上げて止まらずそのまま追い越す。

追い越し際に兄上に意味ありげに笑って見せた。


「おい!ルー!!」


兄上が僕の笑みに反応して、慌てて追いかけてくる。


「ルッ、ルーカス様!」


いきなりのスピードに怯えたのか、声を上げ胸元にしがみついてくるクリス。

その顔は、先までの赤い顔から青くなって強張っていた。

本当にころころ変わるなぁ。


「大丈夫だよ!サムにとってはこれくらい本気の3割も出していないから」


笑いながら、そう声をかけ草原を駆け抜ける。

怖がるクリスの同に片手を回して強く引き寄せた。

腕の中には大好きな女の子がいて、愛馬と二人で気持ちよく風を感じながら駆けるのは楽しかった。

次また、こんな機会が訪れるかわからない。今までは、兄上の次に回ってきた順番、クリスの手を取る一番を初めて手にしたが、それが最初で最後になるかもしれない。兄上の性格上、もう手を取らせてもらえないかもしれない。それはとても寂しい。だが、寂しさはあるがそれよりも、今の喜びを甘受したかった。それが、最後となるのなら尚更。


「クリス、風が気持ち良いね」


楽しくで自然と明るい声が出た。

今後のことは、国に帰ってからどうにかしよう。次回の訪問まで兄上と駆け引きを頑張ればいい。

この短い二人だけの時間。それは永遠ではないから、尚愛おしい。

視線の先に、一本木が見えてきた。

この楽しく愛おしい時間が、もう直ぐ終わりを告げる。

兄上から抜け駆けする機会なんて早々ないだろう。

そう思うとさっきよりも強い寂しさが迫りくる。

視線をまたクリスに向けた時だった。











バリバリバリバリバリッッッッッ!!!!!










耳をつん裂くような雷鳴と共に稲妻が目指す先、一本木に落ちた。

その瞬間視界が真っ白にスパークして、次の瞬間には乗っていた愛馬のサムが前脚を大きく上げ嘶いた。

サムは、軍馬としての訓練は受けているが若いため、まだ未熟な部分が多い。軍を率いるには不十分だが、普段の相棒としては、十分な体力と俊力を持っていた。

そして、それが今は仇となった。


「うわっ!」


「きゃあぁぁぁ」


手綱を強く引きクリスを抱える腕に力を込めて落馬は免れたが、恐怖に我を忘れたサムは暴走し始めたのだ。

その足は今まで見たこともないような速さで、乗り馴れている僕でさえ振り落とされないようにと手綱を強く引くことしか出来ない。


「サムっ!落ち着け!!クリスしっかり掴まってろよ!!」


こんなことは始めてだった。

僕自身がただの乗馬からさらに上を行く馬術の訓練を受けて間がなく、暴走馬の止め方は口頭で説明を聞いていたが実際には未経験だ。頭にあるのは、とにかく手綱を強く引くことしかなかった。

手綱を強く握り、引くが暴走は止まらない。

サムには、僕の声は聞こえていないのか全く速度が落ちない。


「クリス!ルー!」


暴走する僕らを兄上が追いかけてくるが、我武者羅に走るサムには追い付けない。

兄上のフィンは、風のように速く走れる馬なのに一定の距離から縮まらないようだ。


「くそっ!サム!!止まってくれ!!!」


一際、強く手綱を引くが全く効き目がない。

寧ろ嫌がり、頭を大きく振り始めた。


「うわぁ!!!」


頭を振られたことで、握っていた手綱が滑る。焦りからか、手には大量の汗をかいていた。その汗のせいで手綱が手から離れる。


「ルーカス様貸して!!!」


前で小さく固まっているとばかり思っていたクリスが、強い声と共に横から手綱をつかんだ。

手綱がクリスの手に渡った瞬間、クリスは手綱を一瞬緩めてサムの首元をポンポンと何度か叩いた。


えっ!


クリスは、手綱を握り直すと、体を大きく使い右に舵を切り始めた。

最初は嫌がったサムだったがクリスが細腕で握る手綱はびくともせず、巧みな手綱操作をしながら器用にサムの耳に向かって柔らかく落ち着いた声かけをずっとしていた。その声は、優しく歌うようで、馬が嫌がる甲高い声でなく低くもなく心地よく耳に入る。それはどうやら、サムも同じだったようだ。僕が手綱を握っていた時は、時には嘶っていたサムがクリスが手綱を取ってからは無く、少し落ち着いてきたような気がする。

普段のクリストは違い、顔は力強くでも声はとても柔らかだが緊迫感を含んでいた。

いつもの柔らかく愛らしい女の子だと思っていたクリスが、戦う女騎士に見えるほど見違えていた。


「大丈夫よ、恐くないわ。ゆっくりと、そう上手よ」


そうしている間にサムの軌道は、円を描くようになっていた。それは、時計回りに旋回して、最初は速度は速く疾走していたのが駆け足になり徐々にゆっくりになり、大きかった円も小さくなっていった。

どのくらい旋回していたのだろうか、気がつくとサムは落ち着きを取り戻しゆっくりと、足踏みをして止まった。


はぁはぁはぁ・・・


僕の前には、緊張から解放されたクリスが息を深く吐き方で息をしている。

顔を見れば、大粒の汗を出し悪くした顔色の上で光っていた。


「大丈夫?クリス。ごめん・・・」


本当ならムの暴走は、僕が止めるべきだった。

だが、僕はそれが出来なかった。その技量もなかった。

馬術の教師も言っていたじゃないか、馬の操作は腕力も必要だがそれ以上に技術が一番大切だと。

僕は、驕っていた。

サムと僕は、一体で走ることが出来る信頼関係が出来ているから、何があっても大丈夫と思っていたんだ。

だが、実際はこのザマだ。

今日、乗っただけのクリスの方が何倍も技量は上だったのだろう。

そのクリスは、今僕の前で震えている。

さっきまで手綱を操っていたクリスは堂々としていて、暴れるサムを上手く御して顔つきもいつものへにゃんとした可愛らしさでなく雄雄しく・・・女性であるがまさしくそれが一番にしっくり来る、そんないつもと違ったクリスだった。

そんないつもと違って見えたクリスだが今は、まだ体のこわばりは解けていないが疲れからか肩で息をして、強く握った手綱は、いまだにクリスの手の中にありその拳は震えていた。

その震えは、手だけでなく体全体でも見てわかるほど震えていて、痛々しいほどだ。


「二人とも大丈夫か?」


兄上が心配そうに寄ってきた。


「わっ。わたくしは大丈夫です。レオナルド様もルーカス様もお怪我はありませんでしたか?」


疲労が濃い顔色の悪い中、弾かれたように顔を上げ焦ったように僕らを見る。

その視線は、まずは兄上に向かい、フィンにいつもと変わらずのっている兄上の状態が食い入るように見つめた後、一緒に暴走したサムに乗っていた僕を振り返り僕の体の以上を見て確かめた。


「ありがとうクリス・・・君のおかげで僕は無事だよ・・・」


「・・・あぁ、僕も・・・大丈夫、だ」


情けない・・・

感謝の言葉は、尻窄みになった。

大好きなクリスを危険な目に遭わせ、更にその窮地を救ってくれたのもクリス本人なのだ。

好きな女の子守れないなんて、あの一緒の時間に浮かれていたんだ・・・


ギリッ

思わず強く手を握りこみ歯を食いしばっていた。

悔しくって・・・情けなくって・・・力ない自分が、守れない自分が・・・


「ルーカス・・・」


兄上が労わるようにこちらを見ているが何も言えない。顔を上げることも出来なくて俯むく。

直ぐ前に座るクリスも心配そうに見ているのが気配でわかるが、今はその顔を見ることが怖い。

今まで、クリスに触れたくて傍にいたくて兄上から出し抜きたく思い数か月後の誕生日たと言うことを利用して『弟キャラ』として甘えたきた。でも、ここでという時に男らしい姿を見せたかった。見せるつもりだった。従者になった友に相談したときに、女性はそういう『ギャップ』に弱いんだと聞いてクリスの前では、まだ男らしいところを見せていなかった。それは、いずれ来るべき時にそれを見せるつもりだったから・・・それが、今でなくいつだと言うのだろうか。

まさか、こんな事になるなんて・・・

落雷は事故だが、そのあとの頼りないところを見せてしまった俺の姿は、失態だ。

失望をされただろうか。

それとも、頼りないと呆れさせただろうか・・・


クリスの顔を見ることが出来ない。


「あっ、雨」


クリスのその声に、気が付くと僕の握りしめた手にぽつりと水滴が落ちた。


ポツッポツッ


粒で落ちてきた雨は瞬く間に大降りになり、草原で佇む僕らを濡らした。

まるで今の僕の心情のような雨だ。

このまま濡れてしまいたいと思っていた。



「このままではずぶ濡れになります。直ぐそこに我が家が管理している小屋がございます。雨宿りに移動しましょう」


クリスの声を聞いてハッとした。

そうだ、クリスもいるんだ。僕が幾ら自責の念にかられてこのままでいても良いけど、クリスは女の子なんだ。

雨の中一緒に濡れるわけには行かない。

クリスの案内で、直ぐ側にあるという小屋に着いた。

道すがらクリスは、話してくれた。

そこは昔は狩用の小屋だったと言うが、1年前に修復建て直しをしたと言う。簡素な厩も新たに作ったそうだ。小屋と言うにはしっかりとした丸太作りで、部屋も2間あるものだった。

そしてクリスは持っていた小屋の鍵を取り出し開けて、中に僕らを招いてくれた。鍵は、扉のほかに防犯用についていた南京錠もあり、かなり厳重にされていた小屋なんだなぁと思った。

クリスは小屋に入るとすぐさま、薪が用意されていた暖炉に火を点けた。

僕は入って直ぐのキッチンと食卓、ソファーセットのある居間で休んで下さいと気遣われた。


「もう少しで温まります。濡れた上着は乾かしますから、脱い・・・「クリスっ」」


クリスはお茶を入れようと思ったのか、片手にはカップを持ち反対の手で僕らの上着を受け取ろうと伸ばしてきた。

そこへ遮るように、兄上の声が被さる。どこか、焦燥したような、乾いた声に思わず顔を上げた。


「クリス・・・ねえ、君は・・・もしかして・・・」


兄上は何か考えながら言い淀みながら・・・言葉を選んでいるようにも見える。

そして意を決したように顔を上げてクリスの側に・・・正面に立ち見据えて聞いた。


「君は、今日起こることを知っていたのか?」





読んでくださりありがとうございます。

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