私はモブです。モブでも忙しいのです
連続更新していきます。
よろしくお願いします。
「ありがとう疲れていないわけじゃないけど、もう少しクリスとお話したいな」
「そうだよね、最近のクリスの話を聞かせてよ」
あぁぁ、眩しい!
目がつぶれそうな笑顔が、キラキラして眩しいです。
そんな事、笑顔で言われたら喜んでいくらでもお相手しますけど・・・。
といいますか、レオナルド様もルーカス様も疲れなど微塵も見えない・・・。
元気だなぁ。
壁際に立っている付いてきた騎士さんたちのほうが疲れて見えます。
後でメイドに、騎士さんたちに何かさわやかな飲み物を、そうだ乳製品を使った精神的にも回復効果があると言う研究結果が出たアレを飲んでもらおうかな?
ヨーグルトの乳性っていうんだけど、この世界ではあれは捨てられているのよね。
もったいない!
前世の知識でも、体にいいことが分かっていたけどシェルマン領の乳牛から生産されたヨーグルトには、私が覚えている以上の沢山の栄養効果があった。
土地柄か、このファンタジーな魔法のある世界観のせいなのかは知らないけど、こっちとしては体にいいものを捨てるなんて『もったいないお化け』が出てくる案件として商品化に動いている。
とはいえ、それもほんのちょこっとしかお手伝いできていないのよね。
もっと時間があれば、いつか作りたい。
個人的には、あの黒い炭酸飲料を無性に飲みたくなるのでいつか作りたい。
作れる気がしないけど、ここはファンタジーな魔法ありきの世界。
何とかならないかと、思案中。
それはさておき、今聞かれているのは最近の私の動向。
ええ、お答致しますがモブの日常など、攻略対象の様にイベントもなく面白くないことこの上ないですよ。
「わたくしのことですか?
面白くもございませんよ。毎日お母様から、課題を出されていて外出もできませんもの」
ちょっと、拗ねたように聞こえるかもしれないが仕方がない。
3年前よりわたくしは、領地から一歩も出ていないのだ。
基本的なお勉強はもちろんのこと『叔母様が大国の王妃様なのだから』というお母様の謎の一言によりマナーやダンスも王都から一流の先生が呼ばれて、厳しいレッスンが毎日行われていた。
お勉強だって、家庭教師が増やされて歴史と語学なんてマラカイトだけでなくフォルトゥーナのことまで学んだ。
前世からお勉強は、嫌いでなかったからいいけど・・・。態々、フォルトゥーナから、教師が出張してくるあたり、我が家も伊達に高位貴族を名乗っていないのだなと実感いたしましたよ。
次々出される課題を、片付けていく達成感が楽しくて、つい真面目に弱音も吐かずにこなしてしまったのが運の尽き。
出される課題も、知らないことを知って知識になる喜び。祖父の学習塾に、通っていたころの懐かしい感覚。
前世の祖父は詰め込み教育よりも、自主性を重んじる少人数制や個人レッスンの塾を開いていた。お受験用の進学塾というよりも、町内の寺小屋的な塾だから。苦手なものの克服法、得意なものはもっと伸ばそうがコンセプトだったことを思い出す。
私の知識欲もそこで貪欲になり、祖父からも『智恵と力は重荷にはならぬ』という昔の言葉をもらい、知りたいことは、どんどん追及すべしという私の性格の根幹が出来上がったのだ。
教師がこれまた話が上手い人で。少しご年配の学者という人なのだが、フォルトゥーナ国の建国から我が国とのかかわりなどまるで物語を聞いているように引き込まれてします。
というより、あっそれ、原作者の裏設定暴露サイトで読んだっていうのが多くて、この世界は、やっぱり『貴方が為の花束』の世界なのかな?と再認識する日々でした。
そうそう、この世界にはファンタジーらしく、人族以外の種族も存在します。
マラカイト国は、もともと人族の国。過去に獣人や魔人に侵略されたことがあり国土奪還してからは、人族以外を受け入れない国として歴史を歩んできた。奴隷としても、獣人を入れることを嫌がっていたらしい。
フォルトゥーナ国は、元は様々な種族が権力争いを繰り広げていた国だったのだけど、世界最強種族、神にも等しい力を持つ竜人が争いを収めて平定させた国。
なので、王族は竜人の末裔なのだそうです。
まぁ、とはいえどの種族も皆さん、見た目は人族と変わりなくわからない。
わかるのは、獣人は魔法が使えない。エルフは長寿。フォルトゥーナ国王族は竜人だけどその力は、人族のように魔力があってエルフのように少し長寿でというのが特徴で残っているだけというらしい。あ、あとは竜人は、鱗の煌きのような麗しい姿をしているのも特徴だった。
長い年月で、それだけは変わりないとのこと。
うん、そうだよね。
そうか、この王子様は竜人の種族になるのかと、麗しい姿に納得したものです。
そんなこんなで、日々勉強尽くしの毎日です。
まぁ歴史書なんて、物語を読んでいると思えば特に苦ではないのですが、時間が・・・。
お勉強の合間に、紅茶や果物の品種改良。
(おいしいものが食べたいという欲求のため)
折角魔法が使えるんだからと、広々とした広場で実践。
(12歳になって使えるようになったけど、しょぼかった・・・)
お母様の領地経営の助けになればとお手伝いをしていたら、いつの間に私専用の執務室が用意されていた。
(前世の書類整理のスキルがここで生きたわ)
そうこうしていくうちに、あれ?毎日が忙しく勉強してるか仕事(そう呼んでいいのか不明だが・・・)しているかで優雅なスローライフとは程遠い忙しい毎日。
できれば私も普通のお嬢様のように、優雅にアフターヌーンティとか楽しみたい!
だって、全然お茶会も夜会も行く暇がないんですもの。
屋敷の外に出るときなんて、滅多にない。
外出しても、敷地内に作られた研究施設。
田舎なもので、敷地だけは無駄に広いから、手入れをされていなかった昔の離れと壊れかけの温室を改良して研究室にした。
そこには我が侯爵家で働いている、魔術師の三人が常駐していて、日々私の思いつく限りのアイディアという名の無理難題を嬉々として研究商品化を目指しているのです。
何故だか、三人からはマイスターと呼ばれているのです。魔術師さんたちは、みんな20歳は超えている人たちです。私はしがない13歳の小娘なのに、解せぬ。
私だって折角貴族令嬢に生まれたんですから、近隣のご令嬢方とお茶会でどなたの恋がどうとかという、ウフフオホホっていうような優雅な時間を過ごしたいわ。前世でも、忙しくしていて女の子同士の恋バナに参加する機会が終ぞなく人生を終わらせてしまいましたからね。
それに、マナーを学んでもそれを披露することができなければ、どのくらいできているかわからないと思うんだけどなぁ。
そのことに不満を漏らすと二人がいい笑顔をしてお互い笑い合っていた。
「順調だね」
「うん、そうだね」
なんだそれ?
だから、順調に身についているのかわからないんだってば!
「じゃあさ、あとで僕と踊ってみようよ。
僕らが来てる間は家庭教師は全部お休みなんだよね」
ルーカス様が手についたジャムを舌で舐めとりながら提案する。
もう、お行儀が悪いなぁ。
「こちらで拭いてください。
ルーカス様もそんな折角寛いでいらっしゃるのに申し訳ないです。
もう、口元にもついていますよ」
そばに控えるメイドに難く絞った手拭きを持ってきてもらって、渡しながら言うとその手をルーカス様に取られた。
「クリスが拭いて♪」
とろけるような甘えた声、煌めくエメラルドグリーンの瞳を上目遣いで、かわいらしく、妖しく微笑み小首を倒すところまで、萌えです。
「~~~~~っっっ、ルーカス様、もうっ!子供でないのですから・・・」
拒否をすると、シュンと見るからに項垂れて上目づかいで、哀憐の篭った目で見てくる。
ああぁぁぁ、折れたわんこ耳が見えるようだ。
そんな顔で見られたらもぉ~。
うわぁ~って、なって、眼福だぜイエイ!って変なテンションになって恥をさらす。絶対に!
それだけは阻止せねば。
美形大好き『画面越し美形』『二次元イケボ美形』オタクの醜態は、この世界に受け入れられないはず。侯爵令嬢として、学んだマナーがそれを許さない。
私にもプライドってものがあるのよ。
だから今、顔が赤くなってるよ、絶対。
でも、これは恥ずかしいからというよりも、頭の中で理性と煩悩が鬩ぎ合っているせいなのよ。
がんばれ!理性。煩悩に負けるな!
「僕のほうがクリスより下だよ、
お姉さんが年下のお世話してあげるのはあたりまえでしょ」
「そんなたった3か月じゃないですか~っ、・・・もうっ」
にこにこと笑顔で、ジャムがついた顔をこっちに寄せてくる。
瞼を閉じて、すべらかな頬をクイッと上げて寄せる様は、頬にキスを強請っているようにも見えますが、違います。これは汚れを取ってほしいという行動です。
邪な私の心が見せる幻です。
キラキラエフェクトが繋って見えますが、絶対に幻です。
私は、モブなのです。
ヒロインならば、そんなシチュエーションもあり得るだろう。
だがしかし!私はモブだ。
ストーリーの進行役の一端を担うがあってもなくても問題のない、それがモブです。
他の誰かでもできる役割、それがモブなのです。
だからこの場面では、弟キャラ的な攻略対象の姉的モブという役どころでしょうか?
それはそれで、とってもおいしい立ち位置のモブですね。
前世ならば、課金しなければ遭遇しない場面です。
某アイドルの握手会すらも、時間が取れず行けなかった私。
イケメンに触れ合えるなんて。
ご褒美?
これは、ご褒美なのかな?
先日のフォルトゥーナの貴族名鑑最新版を暗記できたご褒美かな?
先生もご褒美をくれるって言っていたし?
これなの?
わ~いって、違う!
煩悩が強すぎて理性が負けそう。
私の逡巡の間、ルーカス様は頬を寄せたまま、グイっと手拭きを持った私の手を引き寄せる。
あぁぁぁぁ、これは拭かないと収まりつかないやつなのか・・・。
えええい!女は度胸よ。
頬についたジャムをふき取るだけよ。
「クリスってば、赤くなってかわいいなぁ。布で拭くのが嫌なら、舐めてもいいよ。・・・どっちかというと、その方がうれしいなぁ」
はい、爆弾発言!!!
何言ってくれていますのことよ!
お言葉使いがおかしくな~るじゃ、あ~りませんか!!!
思わず、ルーカス様から手を、自分の腕を力いっぱい奪い返すと身震いた。
もう、こうなったら意地よ。
拭いてやろうじゃないの。
このくそかわいいイケメン弟キャラめ!
奪い返した、手拭きを持つ手を再びルーカス様に伸ばす。
ああ、もう、なんて綺麗なお顔なのかしら。
頬についたと言っても、本当に口の端。
ほぼ、唇じゃない。
そんなところを舐めてもいいなんて、よく口にしたわね。
モブがそんなことをすれば、小説の中なら読者から袋叩きに遭うのよ。
ああ、オソロシイ。
ドキドキして濡れた手拭きを持つ手が震えるのを、反対の手で支えながらルーカス様の口元に近づけていく。
もう少しで届くというところで、横から素早い動きの他の手が伸びてきた。
その手にパッと手拭きを取られ、ルーカス様に顔にクリーンヒットした。
「自分でできるな」
レオナルド様は笑顔です。
とっても笑顔です。
でも、なぜだか怖いです。
黒いものが後ろに見える気がするのは気のせいでしょうか?
「・・・・・・・・・・・・残念」
私は助かりました。
というか、できたらもっと早く助けてほしかった。
イケメンとの触れ合いなんて、ミジンコ心臓の私に耐えきれるわけがない。
もう、精神ゴリッゴリッに削られましたよ。
残念といいながら、ペロリと口の端のジャムを舌で舐めとるルーカス様は、さっきまでの悪戯っ子のようなかわいらしい感じでなく色気があって妖艶です。
こういうのを小悪魔的というのかしら。
ああ、疲れた。
このお二人を相手するときは、本当に神経を使う。
いくら親戚とはいえ、王族、しかも大国のです。
我が侯爵家なんて、吹けば紙切れのように飛ばれてしまうようなちっぽけな存在なのですよ。
仲良くするにしても、距離感は大切。
近くにいても、馴れ馴れしくしない。
遠くに離れても寂しがったりしない。
私は特別じゃない、モブです。
それを、しっかり心の刻んでおかないと、今後の行動に支障が出るものね。
私の目的は、二人の幸せの為にフラグをバッキバッキに折ることなのよ。
私は、モブ。
私が原因で二人を不幸になんて、絶対にするもんですか。
読んでくださりありがとうございます。