私はモブです
短編を連載に書き直しました。
第一章は、短編のリメイクとなりますが
わたくし、思い出しました。
───私は、モブだわ
久しぶりに王都から帰ってきたお父様から、王太子殿下の婚約の話を聞いたときにいきなり頭の中に火花が散ったような衝撃を受け私は、あぁ、攻略対象と悪役令嬢がシナリオ通り婚約したのね・・・と、スンと妙に納得してしまった。
ってか、なんじゃそりゃ?
普段使わない言葉使いでそう思った。その瞬間、私の脳内には膨大な量の映像が濁流のように押し寄せ、幼い私はそれを処理しきれず家族の前でぶっ倒れてしまったのである。
あっ、この映像は、私の記憶だ・・・
倒れた私は、遠い遠い記憶の夢を見ていた。
所謂、前世?で私は、濃紺のスーツを着てパソコンと書類とをいつもにらめっこしていた仕事中毒ぎみな独身アラサー女性だった。
前世の私は完全なるインドア派で、日の大半をパソコン画面と過していた。
仕事は、書類の管理から業務処理にPCは欠かせず、ブルーライトカットガラスを使用した伊達メガネが相棒だった。
プライベートでも、ネットと親密になりすぎていたなぁ。
趣味と言えば某アイドルグループのファンを密かにしていて、年甲斐もなくキッラキラで、美少年アイドルな彼らに癒しをもらっていた。時には可愛らしい女性アイドルグループにも手を伸ばして、美少女たちを愛でる日々。でも忙しすぎる日常で、コンサートに行けない代わりに、自宅待機型ファンとしてDVDやグッズに囲まれ日々癒された。
他の趣味といえば、ネットで見つけた料理レシピを見て深夜にこっそり作って自分で消費したり、ネットで色んな観光地のビューイングやSNSの旅行体験記を見て旅行気分を味わったりなど、なんとも地味なバーチャルで満足している生活を送っていた。
うん、満足してたよ。
だって、時間が無かったんだもん。
時間がなく忙しいのは幼少から社会人になっても続き、社会人になってからは仕事が忙しく、時間がというより外に出る気力が無くなったから。大学を卒業するまでは習い事などで忙しく余暇の時間がなく過ごしていた。
幼少から習い事が多くて、母の趣味で見ていたクラシックバレエを習い始めたの3歳のころ。おかげで、背筋ピーンな姿勢がいい子供ねぇっていつも言われる子に成長した。心配性の父に連れられて柔道を見学して、小さな女の子が大人の男の人を投げ飛ばすの見て感動して通いだした。祖母の趣味の華道と茶道は、面白そうで始めたが運の尽き、とことん追求して免状まで貰う腕前になった。高校生の時には、生け花コンテストで金賞もらったな・・・
更に、学習塾をしていた祖父の塾にも通って、部活をする時間も恋をする余裕もなかった。
今、考えるとうわぁ~ってなるけど、強制されたものではなかった。前世の私は、好奇心が旺盛で。両親祖父母のやってること話を聞いては「やりたい!やりたい!」と言って自分で自分の時間を余裕ないものにしていったのよね。しかも、途中で投げ出したって言われるのが嫌な負けず嫌い。こうなったら、とことん突き詰めて高みを目指そうじゃんよって、これまた自分を追い込むタイプだった。その代わり、遣り過ぎると燃え尽きてしまい、暫くなにもしたくなくなるという面倒な性格をしていた。
でもなぜか、恋愛には一切の興味はなく、いや、あったけど自分の興味を引く男性は、画面の中の人だったのよね。現実は厳しいのよ・・・
そんな私は、大学卒業後所謂一流企業に就職した。もともと、要領よく頼まれれば卆なく仕事を裁く私に日々仕事量を増やされ、帰っても恋人もいない一人の私は、残業続きの日々仕事漬けで気がつけば仕事中毒のできあがり。
旅行動画見てるときに、いつも壮大な自然の風景に憧れてたなぁ。
田舎でのんびりスローライフ・・・夢だったんだ。
「異世界転生?・・・これは如何考えてもどっかの小説みたいなことになってるのよね?」
ぶっ倒れて、前世と思しき記憶が蘇り落ち着いて、目が覚めた私が起き抜けに呟いた。
だって、今の私はニホンジンではないのだから。
じゃあ、何人だって話だよね。
ニホンと違ってここは19世紀ヨーロッパのような、まだ少し中世の名残がある、だけど微妙な近代化が見える世界のマラカイト国。
どこかニホンのころのような、ちょっとした便利な文明、例えばトイレ!水洗だけじゃなく洗浄付きなのよね。蛇口を捻れば清潔な水は出るしLEDライトのような明るい照明器具もある。なんかちぐはぐな、不思議な空気感がある世界。
そして一番の違いは魔法があるのだ!
剣と魔法のファンタジーな世界。
冒険者という、歴とした職業があって魔物一体討伐にいくらの報酬とかキチンと管理するギルドもある。
まるで、小説や漫画、ゲームみたいだなぁと今なら思う。
つまりは異世界。
そして私は、転生者のようだった。
前世で、通勤時間に読んでいたネット小説マニアの私はすんなり納得した。
何で死んだかって?
ええ、思い出しましたよ。
体調崩しても休めず、仕事漬けでやっと年末最後の仕事を終えて帰宅したところで記憶が途絶えてる。
なんか、玄関で倒れたような・・・。外は、数年振りの寒波で吹雪いてたし、遠くで除夜の鐘を聞いたような微かな記憶が最後かな?
そのまま、死亡?
誰か気づいてくれたかなぁ?
嫌だよ、死後○ヵ月後に腐乱白骨死体で発見って、賃貸だから事故物件になっちゃうじゃん!
多分、帰省しない私を心配した家族が発見してくれたよね。
そうだよね。
じゃないと寂しい・・・
転生した今の私は、クリスティーナ・シェルマン。
シェルマン侯爵の長女だ。
中途半端に斑な濃淡がある茶色の髪に紫繋った碧い瞳。
顔は・・・まあ普通だ。
鼻は高くもなければ低くもない。かといって特別筋が通ったいい形というわけでもない、そこそこの鼻。瞳もどっちかというと大きい方ではあるが、たれ気味な目尻でいつも眠そうに見える。眉もキリリとした美人眉というわけでもない、まあ、どっちかと言えば楚々とした丸顔で大人しそうな女の子顔。
特別美人でもない。愛嬌があってかわいいと言われれば、そうなのだろうな。
難点をあげるなら、チョイぽちゃなこのボディ。
まだ、子供とはいえ幼児体型。ぷにぷに柔らかなまんまるほっぺ。恐らく標準より、多いであろうウエイト。
ヒロインは可憐で庇護欲のそそるかわいい系で、悪役令嬢は見るものを釘付けにするほど高嶺の花な美貌の美人さんだったはず。
うん、私はモブだな。
だって、普通だもんね。
普通でいいもんね、いじけてなんかいないやい!
父と母、5つ上の兄と4人の家族と沢山の使用人と領地の本邸で過ごしている。
父は、お城に勤める宮廷人でもあるので1年の半分以上を領地から2日離れた王都のタウンハウスで暮らしている。
私は生まれてから未だに王都には行ったことがない。けど何れは行くことになるだろうなぁ。
15歳になれば国内の全ての貴族が通う学校があるのだから。
それまでは学校に対して興味もなかったけど、前世の記憶が蘇ってからはそうとは言えなくなってしまったのだ
と言うのも、この世界はどうも前世でしていた恋愛シミュレーションゲーム『貴方が為の花束』に酷似しているのだ。
お父様が持ち帰った王都の土産話で、先だって発表されたこの国の第一王子で王太子フェリクス様とレーヌ侯爵令嬢シルヴィア様が婚約されたとのこと。これがゲームの登場人物の名前と立場も一緒なのだから・・・
『貴方が為の花束』とは、主人公の男爵令嬢マーガレットが15歳になり通う学園で、王太子をはじめ攻略対象たちの心の傷や問題を持ち前の明るい性格と笑顔、そして希少な癒しの魔法で解決して更に愛を育む美しい映像が売りの乙女ゲームだ。
ハッピーエンドにのみマーガレットの花束を持ってプロポーズされるという、巷に溢れまくっている、定番中の『ド』定番ストーリー。
恋愛未経験の私は暇つぶしにスマホ版のゲームをしてみたが、王太子の攻略が結構簡単で飽きてしまい、残りの攻略キャラもネタバレをネットで見て満足してしまったのよね。
その中にあった、隠しキャラ攻略へのお助けキャラが私、クリスティーナみたい。
まあ、詳しいことは追々ということで・・・
ネタバレサイトというか、原作者の裏話ではキャラの裏設定とかも載っていて、意外と本編より隠しキャラや周りのキャラの設定の作りこみが緻密で面白かったから覚えている。
確か、作者がネットで小説っぽいのを発表していた記憶があるけど・・・まあ、そこは重要じゃないからいいか?
もしも、この世界がゲームの通りならば私はもう直ぐ隠しキャラと、そのトラウマを作る対象者に出会うはず・・・