表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

1-7. あいたい

「1度だけでいい。娘に、会いたい。」


同じようなセリフ。

こんな場所で 聞くとは 思わなかった。


あれは、イアンと 一緒に見に行った 舞台。

ロマンチックで、素敵なデートだった。


でも、今は そんな雰囲気もない。

ピリピリとした 空気。


口元に 運んでいたカップを、ソーサーに 置く手が震えた。

コトリと、紅茶が 音を立てる。


「娘に、会いたい。」


もう一度、ピーターは、言った。




[美容師の娘]  【 1-7. 1度だけなら 】




私たちは、なんとか 平穏に 過ごしていた。


美容院は、順調。

予約制に したことも、人気に 拍車をかけた。


アリーも、元気に 育っている。


しかし、イアンの 様子が、少し おかしい。

何かに 悩んでいるような、そんな 顔をする。


「イアン、どうしたの?

 最近、とくにおかしいわ。」


あまりに イアンの様子がおかしくなったことに 耐えきれず、

アリーを 寝かしつけてから、彼に (たず)ねた。


「ウェンディ。

 どう 説明したらいいのだろうか。

 ガネッセに、あの男に ついて調べさせた。

 西に、移住しないか?」


イアンは、語り始めた。


 大司教、ピーター・フォン・アナリゼラ。

 その年齢は、80を超えることで 間違いがないらしい。


 ホームカンシ教において、教祖ケニオンの 次席。

 在位は40年を超え、地位は、実質のトップ。


 年を取る気配がなく、若さを保つ 神の御子呼ばれ、

 神の慈愛によって、人間の 良心を正すものと 言われる。

   

「徳と聖性を示し、尊敬を 集めているが・・・。」


 ほぼ7年に1人ほど(めと)下妻(しもつま)

 そして、その 子供たち。


 これらの者が、全て 行方不明と なっているのだ。


「貴族の血を引く 妻で、天界の妻とされる者は、

 1名、天寿を全うしている。

 問題は、下妻(しもつま)とその子だ。」


正妻(せいさい)は、合計3名。

こちらは、時期が 重なっていることはない。

2名は、既に亡くなっており、3人目は 現在の正妻(せいさい)


「アリーは、あの男の 子供だね。」


イアンが、アリーの 父の身元を 聞いてくることは、

これまで 一度も なかった。


わたしは、彼の目を見つめ、小さくうなずいた。


下妻(しもつま)となった者は、全て行方不明。

 その子供も、全て行方不明。

 ウェンディ。

 あの男は、危険だと思う。」


西へ・・・。

私は、即答 できなかった。



*** **** *** *** **** ***



革袋と 引き換えに、金色のプレートを 受け取る。


その日も面会は、神殿の奥の ピーターの部屋であった。


いつものように、署名を 済ませる。

金のプレートは、箱に 吸い込まれた。


ピーターと 会話をしていると、話がスグに 途切れてしまう。

どうしても、会話の 回答を 考えてしまうのだ。

これは、問題の 起こらない 回答か どうか?と・・・。


テーブルの上の 紅茶は、その間を つなぐ アイテムになる。

飲むわけではないの だけれど、口をつける。


その時も、私は、カップに口をつけたところだった。


「ウェンディ。

 1つお願いが あるのだが、いいかな?」


「どうなされましたか?」


ピーターの声に、不安を 隠しながら答える。


「1度だけでいい。娘に、会いたい。

 娘に、会いたい。

 いや。そうではない。

 君の子供に 会うことはできないだろうか?」


「え?」


「私の子供とは言わない。

 一目でいい。君の子供に 会うことはできないだろうか?」


もしかして、これまでのことは、子供に 会いたかったから・・・。


ピーターの望みが、わかった気がした。

彼の親切は、アリーに 会いたかったからなのだろう。


1度だけなら、会わせて あげてもいいかもしれない。

この面会も、止めることが 出来るかもしれない。


「連れてくるか どうかは分かりません。

 しかし、娘が、参りたいと申しましたら、1度だけ

 連れてまいりましょう。」




=== ===== ===



ピーターは、うれしそうに 笑った。


「ありがとう。ウェンディ。」


私は、そっと席を立った。



=== ===== ===





無邪気にはしゃぐ娘が、私の手を引く。


空は晴れ、光が降り注ぐ。


コトリコトリと鳴る(くつ)の音は、私の足が (かな)でる音。


パタパタパタと、はしゃぐ アリーの靴は、鳴らす。


初めて 教会に 向かうことが 出来るのを 喜んでいるのか、

それとも、私と一緒に 外出できることを 喜んでいるのか。


アリーは、いつもより ご機嫌。


そして、私は、この後の 面会を思うと 不安でいっぱいだ。


やはり、やめたほうが 良かったのかもしれない。




[美容師の娘]  【 1-7-2. アリー空を駆ける 】




「そうね、着替えて いらっしゃい。」


少し考えてから、アリーに告げた。


昼食を、イアンと食べるように言うと、いつも通りの行動。


「ママと 出かける。」と 無邪気そうに言う、アリー。


きっと、分かっている。 この子は、それほど 無邪気ではない。


連れて行って もらえないと 分かって こう言う アリー。

連れて来ない 会えないるだろうと 考えている ピーター。


親子の見えない 繋がりが あるのかもしれない。


お昼からは、イアンは、ガネッセ老人と 出かけるはず。

夕方までは 帰らないだろう。


連れて行こう。 不意に そう思った。



*** **** *** *** **** ***



教会は、多くの人で あふれていた。


いつものように、金のプレートを 受け取る。


「お嬢様に 神の加護が ありますように。」


アリーにかけられた 受付での祝福の 言葉。

本当に 神まで 届いてほしい。


ビックリした。 像の前で、ピーターが 待っていたのだ。

初めての 経験。


祈りを 捧げる。

ピーターが、アリーを 気にしているのが 分かった。


「この子が アリーだね。」


アリーは、私のスカートを握り、後ろに 隠れようとした。


「もうすぐ 7歳に なります。」


私が、うなずいて 答えると、そっと顔を出して 横に並んだ。


(さと)い。 カンの いい 子だ。

私が、ピーターと 面会するため、毎週、教会に 来ていることに

気づいたのだろう。


「あちらの 部屋で 署名を お願いします」


アリーは、取り繕っ(つくろ )て、頭を下げたり、笑ったり している。

けれど、ピーターのことを 警戒している。


おかしなことに なる前に、避難させてた ほうが よさそうね。


「アリー、そっちの 中庭で 待っていてね。」


移動し、免罪符(めんざいふ)に 署名を する。


あれ? 今日は、金のプレートを 返していない。

いつもは、小さな 宝石箱に 返却している 金のプレート。

これが 手元に 残ってしまっていた。


返さなくては ならない。

私は、あわてて、ピーターの部屋に 戻った。


居ない・・・。

いつもなら、部屋で 椅子に掛けているはずの ピーターが居ない。


私は、何も考えずに、中庭に 飛び出した。

アリー?アリー?

きょろきょろと 首を振り 娘を探す。


居た。ピーター。

え? 何を見ているの?


何をするでもなく、上空を 見つめるピーター。

どこ? アリーは?居ない。


ふと、ピーターの 視線を追った。


噴水の向こう。

スカートを 押さえながら、空から舞い降りてくる天使・・・。


ピーターを 追い越し、慌ててかけていく。


=== ===== === ===== ===



天使は、お転婆な 娘の顔をしたまま、気まずそうに 目を合わせ、


そして、ふっと 横に 目をそらした。



=== ===== === ===== ===



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ