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1-4. 大司教と免罪符

通路を 迂回し、中庭へと まわる。


中庭には 噴水があり、美しい 女性の像が あり、

白い石畳の(いしだたみ ) 周りには 芝生。


聖堂は、高く そびえて 立派。

屋根の 部分には、天使の 彫刻。(ちょうこく )


そうして、もう一度、屋内に 戻る。


このルートだと、一般の人どころか、教会関係者とも

顔を 合わすことが、ほとんどない。


お忍び用の ルートだ。


司祭服の男が、言う。


「大司教様が、お待ちです。」




  [ウエンディの独白]  【 1-4. ピーター・フォン・アナリゼラ 】




大司教、ピーター・フォン・アナリゼラ。


齢80を 超える とされる、王都ホームカンシ教の 大司教。


その在位は、40年数年。


ホームカンシ教において、教祖ケニオンの 次席となる 権力者である。


驚くべきは、その 若々しさ。


20代に 見える その容姿のため、神の御子とも 呼ばれる。



*** **** *** *** **** ***



ピーターは、あの頃のまま で あった。


ハンサムで 美しい顔。


 情熱的な 目。


   人を 溶かすような 声。


     若々しい 立ち姿。


そしてなりより、おそろしく 研ぎ 澄まされた 魔力。


私ですら、この 魔力が 異常であることが 分かる。


「久しぶりだね。ウェンディ。」


にこりと笑う。

あの頃の私は、この笑顔が 天使に 見えていた。


この顔は、仮面。

この顔は、欺瞞(ぎまん)


これが 分かるように なっただけでも、私は、成長したの だろう。


私は、にこりと 笑った。

ピーターと 同じように。


「お会いできて、うれしいです。」


できるだけ、嬉しそうに。

会いたくて たまらなかった かのように。


「この書類を 見て ほしい。」


下妻の 文字が、目に入る。


アシェンプテル=ウェンディ=アナリゼラ。


私の名前・・・。


そして、アナリゼラ・・・。


「私は、あの時、あなたと 婚姻の契約を 交わした。」


してないっ。

あの日、あなたは、居なくなった。


結婚の 登録を 行うのは、王都教会か 王都役所。

私は、イアンと、王都役所で 結婚を 届け出た。


おそらく、ピーターは、教会での 登録を 行ったのだろう。

私の 知らない ところで・・・。


「これは、まぁいい。

 私にも、非が ある。」


ピーターの 手に 魔力が こもる。

火魔法・・・。


アシェンプテル=ウェンディ=アナリゼラの 名前と 共に、

婚姻の 書類は、燃え上がって 灰に なった。


「確認 したいことが ある。」


灰になった 紙切れを 指先で もてあそびながら、彼は 言う。


「あの子は、・・・私の 子供だね。」


アリー。アリー。アリー。

私の、頭が 警報を鳴らす。

この人に、教えては ならない。


「いいえ、イアンの 子供です。」


ピーターは、一瞬、顔を しかめた。


「私は、あなたのことを 忘れたことは 無かった。

 少し、貴族の ゴタゴタに 巻き込まれてね。

 あんなことに なってしまったが・・・。」


悲しそうな顔。

この顔に 気を 緩めては ならない。


「今、あなたと あの子は、12歳未満の 子供を 働かせた 疑惑、

 搾取や(さくしゅ)暴力・虐待か(ぎゃくたい)ら 保護されるべき

 子供の 存在として、調査対象と なっている。」


覚悟は していたけれど、言葉にされると 足の震えが止まらない。

けれども、テーブルの下は、ピーターには、見えない。

せめて 表情だけは、変えずに・・・。


「そのおかげで、あなたと子供を 見つけ出すことが できた。

 本当のことを 教えてほしい。

 私は、あなたも、子供も 守りたいんだ。」


「違います。イアンの 子供です。」


ピーターを、信用するわけには いかない。


「そうか・・・。

 だが、このままでは、親子が 引き離される。

 あなたは、罪を犯した者として、逮捕されることに なる。

 そして、子供は、保護院に。」


私が どうなろうと、アリーは、イアンが、守ってくれる。

そう信じて、私は、態度を 変えることを しなかった。


「困ったことに、ヘドファン伯爵家の 存在がある。

 あの男は、伯爵家の人間。

 しかも、歴戦の冒険者だと 言うではないか。」


ピーターのため息で、灰が、ふわりと 舞った。


「教会も、つまらないことで、伯爵家を 敵に回したくはない。

 私は、あなたを 救いたい。

 これを 理解してほしい。」


私の 喉が 鳴らした 唾を 飲んだ音。

ごくり という 音は、外に 漏れなかっただろうか。


「幸い、あなたには、美容院の 売上げがある。

 形だけでいい。

 免罪符(めんざいふ)を、手に 入れてほしい。

 手配は、私が 責任をもって行う。」


助けの手が 伸びた?

ピーターから?


ピーターが 小さなベルを 手に取り、チリンと 鳴らす。

隣の部屋に 控えていた 司祭服の男が、厚い紙を 持ってきた。


「これが、免罪符(めんざいふ)だ。

 署名を 隣の部屋で してほしい。」


司祭服の男に うながされ、隣室に 向かう。

ペンを とる。


普通の 免罪符(めんざいふ)・・・。

おかしな 文言はない。


2通に 署名を行う。

1通は、教会の正本。

1通は、私の書類となる。


「では、こちらに 血判を。」


血判?


出された 針で 人差し指の先を 小さく 刺す。

指を 書類に 押し当てる。



え? 光った。

免罪符(めんざいふ)は、一瞬だけ 白い光を 放った。


なにも なかったように たたずむ 免罪符(めんざいふ)

教会の正本。

魔法の かかった書類 なの だろうか?



もう一度。 今度は、光らない。

2枚の書類を 完成させ、私の書類を 受け取る。


司祭服の男は、正本の書類を うやうやしく掲げ、

薄く重そうな 黒い箱に しまった。


「ありがとうございます。

 どうぞ、大司教様のところに お戻りください。」


ピーターの 元に戻ると、テーブルの灰は、片づけられていた。


「今回は、私の権限で 無理やり 用意した。

 本来、免罪符(めんざいふ)は、教会への 貢献のある 人間の

 罪を 赦すために ある。」


私は、小さくうなずいた。


「不本意では あるだろうが、困らない 程度でいい。

 美容院の売上げを 寄付 してもらうことに なる。

 金貨1枚で 良い。

 教会の人間に 言い訳がたてば、それで 良い。

 1週間に1度、この場所に 来てもらう。」


驚いた。

無理難題を、突き付けられる かと 思った。


要求は、ただ1つ。

教会に1週間に1度、寄付を すること。

それも、額は、自分で 決めてよい。


あまりに 親切。

甘い 措置。

ピーターは、あの頃と、同じ?


チリン。ピーターの 手元から 音が 鳴る。

司祭服の男は、ほとんど 音を立てずに 隣室から 私の隣へ。


「それでは、今日は、ここまでと しよう。

 この者に、来た時と 同じように あなたを 送らせる。

 時間を とってもらって すまなかったね。」


「とんでもございません。

 ご厚意に 感謝いたします。」


立ち上がり、深く 頭を 下げる。

意図は、分からないが、この人は、また 私を 助けてくれた。

複雑だけど、感謝は、しなければ ならない。


ピーターの 部屋を 出ようとした 瞬間だった。


「そういえば、あの本。

 あなたに 預けてあったものだが、

 何か 変わったことは、起こら なかったかな?」


あっ・・・。

免罪符(めんざいふ)の 白い光を 思い出してしまった。


アリーが、王国神書に 触れたときの 白い光。

あれは、たぶん、さっきの 光と 同じものだ。


ピーターの 目を 見つめる。


「はい、大切に 保管させて いただいて おります。

 おそらく、何ごとも起こっては、いないと 思います。」



=== ===== ===


「そうか、ありがとう。

 大切に 保管して くれている ようで 安心した。」


ピーターは、にこりと 笑った。


=== ===== ===

次話より、投稿が、1日間隔になる予定です。

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