6話
「ママ……こんなに、みんなに愛される人だったんだね」
たくさんの拍手、周りの人はみんな笑顔。ジュリアンナは、喜びを感じました。しかし、また、寂しさも感じていました。
パーティーの後の帰り道。ジュリアンナと母は、手をつないで歩いていました。
「ねえ、ママ」
「なあに?ジュリアンナ」
「どうして、わたしの体は、みんなと違うの?ママは、どうして、わたしを産んだの?」
ジュリアンナは、今まで10年間、ずっと聞かなかったことを聞きました。
「誰かがそんなことを言ってきたの?」
「ううん。誰にも言われていないけど」
「あなたが幸せに、元気でいてくれることが、生きてくれていることが、そしてピアノで笑顔になってくれる事が、わたしの生きがいよ。今日のスピーチでもあなたの事を話したわ。……聞いていてくれてたかな?」
「……」
「悲劇のヒロインになど憧れない。栄光を手にしたい。そう、最後に言ったんだよ」
「……」
ジュリアンナは言いました。
「違うよ、ピアノを思うように弾けない私が、みんなが輝いていたのが……くやしくなっただけだよ」
「ジュリアンナ」
「ママごめんなさい。わたし、それでもピアノが弾きたいの。ママみたいなピアノの音を。五本足でもいいから、指が途中までしかなくても、いいから……」
ジュリアンナの、未熟な成長で止まった両手を、母の手が包みました。
「綺麗な手があったって、愛がなければ、ピアノは弾けないわ。
ジュリアンナ。あなたは絶対にピアノを弾けるようになるわ。綺麗事なんかじゃないよ。あなたはピアノを、心から愛しているから」
「ありがとう、ママ」
母は、いつもの優しい笑顔で、ジュリアンナに微笑みます。
「わたしだって、人より大変な事が多くても、悲劇のヒロインになんか、ならないよ。ママがいて、ピアノがあって……とても、幸せだもの!」
ジュリアンナも、母に微笑み返しました。
「来週ある、ダニエルくんのリサイタルに、招待されたよ。もちろん、ジュリアンナ。あなたも。一緒に行きましょう」
母は、リサイタルの招待チケットを、2枚、取り出しました。
「本当!?ママ」
「ええ、本当よ」
ジュリアンナの気持ちは、とても高まりました。夜空には、月が、星が、とても輝いていました。