5話
パーティ当日。会場に向かう母の姿は、いつもと違う、始めてみるような、華やかな姿でした。ジュリアンナは、ドキドキとしながら、母とパーティーに向かいました。
「わあ!すごい……」
広い会場。綺麗な衣装を着ている、素敵な大人たち。豪華なステージの上にある、立派なグランドピアノ。ジュリアンナの心は高まりました。
すると、少しふっくらした、優しそうなおじいさんが、ジュリアンナと母の元へやって来ました。
「ロザリアさん、本当に来てくれたんだね」
母が呼ばれたその名前は、ジュリアンナの知らない名前でした。
「ロザリアさん、最初は君のスピーチから始まるけれど、よろしく頼むね。そして今日は楽しんでいってね。久しぶりに会う仲間もたくさんいるよ」
「会長、ありがとうございます」
ジュリアンナにはよく分かりませんでしたが、おじいさんは、会長と呼ばれている方だそうです。母がジュリアンナを紹介すると、会長さんは、ニッコリと微笑んで話してくれました。この会長さんが、ジュリアンナの母を気に入っている事は、子供のジュリアンナにもわかりました。するとそこに、男の子がやってきました。
「おお、ちょうど良かった。紹介するよ、この子が、私の孫の、ダニエルだよ」
ジュリアンナは、ハッとしました。
ダニエル。彼は将来有望な天才少年として、今ピアノ界で注目されている子でした。ジュリアンナも、知っていました。
「初めまして」
ダニエルは笑顔で挨拶をしてくれました。
「は……初めまして……」
会長さんは嬉しそうに言います。
「ダニエル、ロザリアさんの娘さんのジュリアンナちゃんだ。ダニエルの一つ下の女の子だ。仲良くしなさいね」
五体満足の、綺麗な指。ジュリアンナは、その姿に、嫉妬するくらいでした。しかし、ダニエルはとても気さくな子で、ジュリアンナは、なんとか仲良くお話できました。
会場には、何十人、いや何百人と人がいるのか、ジュリアンナにはわかりません。そんな中、パーティーが始まりました。ステージには、とても美しい女性が一人、立っていました。すると会場が、ざわざわと、落ち着きをなくしていきました。
「あれは……ママ?」
ジュリアンナの母がスピーチを始めました。
その人は、母であり、母ではありません。ジュリアンナが、ずっと、ビデオ等で見ていた、憧れのピアニストの女性でした。
「彼女がとうとう戻って来たのか!?」
「本当に、ロザリアさんなのね!!」
「ロザリアは、蘇ったんだ!!」
ジュリアンナの周りからは、喜びの声が次々と聞こえてきます。驚きと、嬉しさと、戸惑いのあまり、ロザリアが話している言葉は、ほとんど、耳に入って来ませんでした。
ロザリアは、スピーチを終えるとピアノの前に座りました。会場には、天使のような音色が、響きます。ジュリアンナも、知っている曲でした。
ジュリアンナは、生まれて初めて、母の、ピアニストとしての姿を見たのでした。