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第4話 デート(?)


 ローナンの街。ローナン地方の中心都市でもあるその街は、すっかり廃れ切ったローナン地方にあっても、唯一といっていいほど賑わいを見せている街であった。


 たださすがに、ローナン地方。シーアン国のほかの地方に比べれば格段に治安も悪ければ、外を歩くのにも油断は決してできない。俺ですらそうなのだから、華奢な少女であるイーナなんてもってのほかである。


「油断するなよイーナ。ローナンは犯罪の巣くう地方だ。ちょっとでも隙を見せれば襲われる」


「心配してくれてるんだねルカ!ありがとう!でも大丈夫だよ!」


 そりゃあ心配も心配である。普通に考えれば、戦闘なんて全く縁のなさそうなイーナは、犯罪者たちにとってはただの的でしかない。ネルくらい強ければ、一人で歩いていてもさほど問題はないだろうが、俺はまだイーナの実力を知らないのだ。厄災討伐に力を貸してくれるというし、そこそこ腕には自信があるのだろうが、それでも防衛をするに越したことはない。


「おい、また被害者が出たらしいぞ。またしても胸を一突き。同じ犯人の仕業に違いないだろう」


「全くどうなってるんだ。ローナン大森林の件といい……」


 酒場を出て、路上を歩いていた俺達の耳に住人の会話が届いてきた。どうやら、厄災による被害はもうすでに街の人々の間でも噂になっているらしい。


「ここでも厄災の話題が上がっているようだな」


「……そうみたいだね」


 そう口にしたイーナの表情は何処か強張っているように感じた。俺の厄災討伐にイーナは快諾こそしてくれたものの、やはり相手は災厄。ここまで噂が大きくなってくれば、不安の一つや二つ感じたとて、全く不思議ではない。それでも、俺を信じてパートナーだと言ってくれたイーナを裏切るわけにもいかない。俺は何とかイーナを元気づけようと、明るく振舞いながら言葉をかけた。


「そんなに不安に思わなくても大丈夫だ。いざとなれば、俺の命に代えてでもイーナは守るさ。それが俺を信じてくれたイーナに、俺ができる唯一のことでもあるからな」


 正直、厄災にかなうビジョンなんて全く見えなかった。それでも、イーナを危険にさらすようなことだけはできない。それは俺の本心から出た言葉であった。


「うん!ありがとうルカ!私もやれるだけのことはやるよ!」


 それから歩くこと、まもなくのことである。ちょうどギルド近くの道を通った時に、俺達はギルド前に人だかりができているのを見つけた。人だかりの中からは男の叫ぶ声が聞こえてくる。まだ遠くてよく聞こえないが、少なくとも何か異常が起こっているということは明らかである。


「なんだろうね?なんか騒いでるみたいだけど……」


 この街では、ギルドの近くで騒ぎがあることなど日常茶飯事である。なんといっても治安の悪いローナンの街で、役立たずの兵士たちに代わり、実質治安維持活動を担っているギルドは、怒りにまみれた被害者たちからの相談が後を絶たないのである。


「また、何か事件でもあったんだろう。このローナンの街ではいつものことだ」


「助けてくれえ!助けてくれえ!」


 ギルドに近づくにつれて、男の懇願するような声が俺たちの耳に届く。


「殺される!俺は殺される。見ちまったんだ!あの夜、人が刺されて死ぬところを!おっそろしい巨体の男が、女性を一突きにしていた!」


 どうやら人だかりの隅から話を聞いている限り、先ほどの路上で男達が話していたのと同じ事件であるようだ。この騒いでいる男は、その犯行現場を目撃してしまったようで、次は自分が狙われるかもしれないと、ギルドに駆け込んだようだった。おそらく、ギルドで断られたときに言っていた『別の案件』とはこのことなのだろう。いくら犯罪が日常茶飯事であるローナン地方とはいえ、さすがに殺人事件ともなれば珍しい。それはギルドの面々もかかりっきりになるのは理解できた。


 まあ、かといってギルドが絡んでいる以上、俺達が同行するような話ではない。男は犯人が巨体の男と言っていたし、俺の追っている厄災『業火の魔女』の件とは別件だろう。


「おっそろしい巨体の男かあ……なあイーナ……」


 ちらっとイーナの様子をうかがうと、イーナは思いのほか真剣な表情で、男の話に耳を傾けているようだった。俺の声など、全く聞こえていないという様子で、イーナはその話に集中していた。そんなイーナの様子がどうも気になった俺は、改めてイーナの名前を呼んだ。


「大丈夫かイーナ?なんかあったのか?」


 今度は俺の声がイーナの耳に届いたようで、慌てたそぶりを見せながら、イーナは俺に向かって笑顔を浮かべた。


「……ん、ああ!大丈夫だよ!ちょっとあの人の話が気になっただけ!」


「でも、俺たちの追っている厄災とはどうにも違うみたいだな。まあギルドに任せておけば大丈夫だろう!」


「……そうだね!私たちは、私たちのやるべきことに集中しないと……」


 再び歩き始めたイーナであったが、その表情は何処か曇っているように俺は感じていた。どこか元気のないような様子のイーナを何とか元気づけようと、俺はイーナにある提案をしてみたのだ。どうせ今日のこの後の予定といえば家に帰ることだけである。


「なあ、イーナ!イーナはローナン地方の人間じゃないって言ってたよな!せっかくだから、ローナンの街でも見て回らないか!特に有名な観光地があるというわけでもないけど……」


「うん!ルカが案内してくれるというのならぜひ行きたいな!ありがとうね!気を使ってくれて!」


 パーッと明るい表情へと変わるイーナ。俺はその笑顔を見られるだけで、幸せな気持ちに浸れたが、素直に感情を表に出すというのもなんだか恥ずかしいのだ。


「じゃあ行こうか!ちょっとだけ街を回ってうちにいこう!」


「なんだかデートみたいだね!ルカ!」


 俺の隣で歩くイーナは、無邪気な笑顔で笑っていた。デートかあ…… 思えば今までそんなことなどしてきた記憶なんてなかった。小さいころから鍛錬をする暮らしに慣れていたし、親父も常に俺に厳しかった。そんな環境の中で育ってきた俺は、今までネルや使用人以外の女と一緒に遊びに行くといったようなことは一度もなかったのだ。


「ホウオウフルーツ!?買ってもいい?あれ私大好きなんだ!」


 ローナンの街の中央にある市場。ローナン各地から名物が集まってくる市場は常に活気に賑わっている場所である。イーナが興味を示したのは、ローナン地方原産といわれるホウオウフルーツという果物であり、地味な外側の見た目とは裏腹に、中には真っ赤なみずみずしい果肉が詰まったローナン地方名物の食べ物である。


「ああ、せっかくだしここは俺が出しとくよ」


「いいの!?ありがとう!お言葉に甘えさせてもらうね!」


 市場のおじさんにその場でカットしてもらった、ホウオウフルーツをほおばり、至福の笑みを浮かべるイーナ。そんなイーナの様子を見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。俺自身もホウオウフルーツはわりと好きな部類に入る食べ物であったが、こうして誰かと一緒に食べるホウオウフルーツはいつもに増して美味しいように感じられた。


「やっぱり美味しい~~!最高~~!」


「喜んでもらえて良かったよ!前にもホウオウフルーツを食べたことがあったんだな!」


「そう、前にシーアンに来たときに初めて食べて!感動するくらい美味しかったんだ!」


 まるで子供のようにはしゃぐイーナを見ていると、どんどん他のシーアンの名物も紹介したくなってくる。幸いにもこのローナン地方は、食べ物だけは美味しい。流石に一次産業の地と言う事もあり、そこだけは、他のシーアンの地域に負けないこの地方の強みでもあるのだ。


「ホウオウフルーツも美味しいが、シーアンには美味しい食べ物が他に一杯あるぞ!」


「ルカ!次は何を食べに行くのかな!」


 きらきらと目を輝かせるイーナ。それからしばらくの間、俺達は市場を歩き回り、いろいろなシーアンの名物を食べ歩いていたのだ。


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