17.攻撃特化お嬢様VS防御特化のナイト
「――で、マジでこれから戦うんですかあなた達」
バトルフィールド:ランダムによって決定された荒野フィールドの片隅でナギサが呟く。
「当たり前だよ!この生意気な後輩に礼儀ってものを叩き込んでやるんだ!」
「フン、やってみるがいい!」
ナギサの呟きを少し離れた場所から聞いたカエデとシューマは腰のホルダーからそれぞれ自分のアクロスデバイスを取り出す。
喫茶店の中で言い争っていた2人は
「ボクと戦えシューマァ!」
「いいだろう!」
という口論の内容通り、本当に会計を済まして外に出るなりバトルを始めたのである。
「ボクのランクはEだからね。ランクFとEにそこまでの差は無いんだけど、弱い者虐めになるといけないから設定でお互いのステータス状態はランクFの状態と同じになるようにしといてあげたよ」
カエデが腰のホルダーから自身のアクロスデバイスを取り出しつつそう言った。
そんなこと出来たのか、とナギサはバトルの設定に関して新たに知識を深める。
「そんなことをして後悔しても知らんぞ?」
「……なんか今日のお前、いつもより2倍増しくらいで偉そうだな。最近嫌なことでもあった?ところでシャルディちゃんのダメージはもう大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。俺達はさっきの戦いで大してダメージを受けていなかったからな。喫茶店でプリンを食った時にアイツの体力は全回復していたよ」
言われてみれば少し前に初心者狩り2名と戦っていた際、シューマとシャルディは特に大きな被弾をすることなく敵の魔女っ娘、ヒナを圧倒していた。
敵のスキル“スリープボム”は見事に食らったものの、付与された状態異常によって寝ていた後は放置されていたため、ソウハに比べれば負ったダメージは遥かに少ないのだった。
さて、時間:無制限、バトルフィールド:ランダムという設定で始まったこの戦いはナギサには止めることが出来ない。
……というか、特に止める気は無い。
自分には関係無いので勝手に戦っててくださいという感じだ。
(まぁでも、カエデさん達の戦いをゆっくり見れるのは楽しみかな)
アーメスのスキルは“アイアース・シールド”と盾を投げつける"シールド・ブーメラン"しか確認できなかったため、他のスキルはどのような物を使うのか気になっていた。
それにソウハと同じく剣を使って戦うドウルだ。彼女と違ってステータスは防御寄りのようだが、戦いを見ていれば何か学べることがあるかもしれない。
ナギサの隣にはソウハも立っていた。2人は「これがあの時ぶち当たった見えない壁かぁ」とバトルフィールドと観覧用のフィールドを仕切る見えない壁をペタペタと叩く。2人は初めてバトルした際に、この壁に衝突してダメージを受けたことがあった。
「これはどっちを応援すればいいんですかね?」
真顔でそう聞いてくるソウハにナギサは少し考え、
「好きな方でいいんじゃない?どっちが勝っても僕達には関係無いんだし」
と答えると、それを聞いたシューマが“自分には関係無い”という言葉が癇に障ったのかこう言った。
「俺が負けたらナギサの身体を好きにして構わん」
「ふざけんな」
何勝手に友人の身体を賭けに使っているのだ。というかそれ、言ってて気持ち悪くないのか。
先ほどまで闘争心むき出しであったカエデもこれには困惑したのか、大層反応に困った顔をした。
「……いや、いらない、かなぁ…………」
「ですよねぇ!」
「しかぁーし!ボク達が勝ったら……、うーん……そうだなぁ……」
カエデは顎に手を当てて自らが勝った時の報酬を考える。頼むから僕を巻き込まないでくださいよとナギサは心の中で祈った。その隣でソウハがナギサの胸の内でも察したのか、お祈りのポーズ。
よし、これで行こう。とカエデが口を開く。
「今後ボクのことは“カエデちゃん”と呼んでもらおうか!勿論リアルでもね」
ビシィ!と人差し指をシューマに突きつける。……そこは“カエデさん”とかじゃないんだ。
いいだろう、なんだって呼んでやるさ。とシューマが言う。
「ねえ、君が勝った時のことは考えなくていいの?ま、どうせボク達が勝つんだけどね」
「は?勝つのは俺達なんだが?それに、特に望みは無いよ。これからも“貴様”のことを“貴様”と呼ぶだけだ」
挑発的な笑みを浮かべながら言うカエデに対してシューマは涼しい顔でそう返す。二人の視線の間でバチバチと火花が鳴るイメージがナギサには見えた。
……元を辿れば先輩に対して何の遠慮も無く“貴様”と呼んで突っかかっていった彼が1000%くらい悪い気がするのだが、こいつはこういう奴なので仕方ないか、とナギサは諦めた。2年ちょっとの付き合いの友人の性格や行動はなんとなく知っている。
「口での戦いはこれまでにして……、始めようか!イグニッション!アーメス!」
「イグニッション!シャルディ!」
砂塵の舞う荒野に2人の声が響く。シューマとカエデは自身の姿をアクロスデバイスに眠る自らのドウルへと変えた。
カエデの立っていた場所に赤髪の騎士アーメスが、シューマの立っていた場所には銀髪の銃士シャルディがそれぞれ現れる。
シャルディは登場するなりファサァッと髪をかき上げ、腰のホルスターから自らの獲物である魔銃を取り出して構えると声を張り上げ――。
「偏差値の高い乱れ撃ち!白銀の魔弾シャルディ、絢爛華麗に参上!!ですわ!」
前回とはまた違った不思議な名乗りを上げた。
『ひょっとしてそれ複数パターンあるのか……?』
彼女とリンクした状態になるシューマが呆れたような声で呟く。
「しっくりくるのが見つかるまで色々と研究中ですわ」
『……早く見つかるといいな』
初心者狩りの2人と戦った際は“人生は二度あり、そして三度ある”というヘンテコなものだったが、今回はまた違った意味でヘンテコなものになっていた。
なんなんだ、“偏差値の高い乱れ撃ち”って。
“乱れ撃ち”という単語がある分、だいぶシャルディ本人のキャラには寄ってきているが、その頭に付いている“偏差値の高い”というワードが意味を分からなくしている。射撃に偏差値が関係あるのだろうか。
“白銀~参上”までは前回と同じなのでどうやらそこは固定らしい。何故そこは良い感じに纏まっているのに前半がトンチキになるのか。その理由は恐らく誰にも分からない。
そんな意味の分からない名乗り口上を上げるシャルディの姿をソウハだけがキラキラとした眼差しで見つめていた。
次にイグニッションしたら何か言い出すのかなぁ……とナギサは頭が少し痛くなった。
「前の名乗りも影から聞いてたけど、やっぱ変なフレーズだなぁ」
「えー、オシャレだと思ってますのに」
“人生は二度あり~”の時もしっかり聞いていたらしく、困惑しながらもどこか楽しそうに苦笑するアーメス。
……の、背後でカエデがシャルディと同じように声を張り上げた。
『華麗なるナイトマスター・カエデ、颯爽登場!!』
「お前が名乗るのかよ!俺はやらねえぞ!?」
自分のマスターが同じように名乗りを上げたため、アーメスは自分の背後に向かってツッコミを入れる。
「マスター同士を入れ替えてみたら面白そうですよね」
「それだと片方が本当に騒がしそうだな……」
目の前で行われている寸劇を眺めながらナギサとソウハが話す。
――やっぱ僕達ってキャラ薄いのかなぁ。
『お喋りはそこまでだ!撃ちまくれシャルディ!』
「承知ですわ!」
シューマの指示と共にシャルディは円を描くように走りながら名乗りの際に構えた魔銃を撃ちまくる。とても偏差値が高そうには見えないが、とにかく乱れ撃っている。
シャルディの持つ魔銃という武器は永続的な連射は不可能らしく、5,6発ほど魔銃を発射するたびに銃のスライドに相当するであろう部分に掌を当て、魔力をチャージした。
アーメスは左腕に装着された盾でそれを受けるが、様々な方向から放たれる魔法の弾丸を全て防ぎきることはできず、受け損ねた攻撃が鎧に当たっては弾ける。
シューマはアーメスが装備しているスキル、“アイアース・シールド”の装備時効果を事前に知っていた。
自身のHPが90%以上ならばスキルによるダメージを半減させるというものだ。つまりスキルによるダメージを与えたいならば相手のHPを先に削っておかなければならない。
『そっちが防御型のドウルであることは知っている。……だが、攻撃特化のシャルディの攻撃にどこまで耐えられるかな!』
「おーっほっほっほ!良い悲鳴をお聞かせ願いますわ!」
シャルディのステータスタイプはソウハよりも攻撃的に設定されている。
最初のドウル作成時にシューマがかなり偏ったステータスポイントの割り振りを行ったらしい。
そのため、シャルディは全力で走ってもソウハが走るスピードには遠く及ばないし、敵のスキルによる攻撃をまともに食らえば、即座に体力が危険域に突入してもおかしくないほどの紙装甲っぷり。
だが、その分火力に関しては折り紙付きで、防御特化型のステータスタイプらしいアーメスもHPが徐々に削られていく。
更にANOはドウルとリンクしているプレイヤーの精神状態がドウルのステータスに関わってくる仕様になっている。
常に自分に自信を持っている……というか、世界は自分を中心にして回っているとすら思っていそうなシューマの傲慢な性格が、ただでさえ高いシャルディの攻撃力を更に高めているのだろう。
『単なる通常攻撃の割に結構効くなぁ……。残りHPはもうすぐ8割を切るか……』
「このまま守備に徹してるだけじゃ埒が明かないぜ。突っ込んでいいか?」
『うん!いきたまえ!』
盾と剣で魔法の弾丸を防ぎながらアーメスがシャルディ目掛けて駆けていく。
鎧を着こんでいるにもかかわらず、その距離はもうすぐシャルディに追いつこうとしていた。シャルディが鎧を着ている騎士よりも遅いということでもあるのだが。
「チッ!あとちょっとくらいでいいからスピードが欲しかったですわね!」
自らの能力値の極端さを嘆きながらもシャルディは後方に向かって魔銃を撃ちながら逃げ続ける。
アーメスはそれを何発か受けながらも怯むことなく近付いていき――。
『そこだ!アーメス!ハイスラでボコれ!』
「ハイスラってなんだ!?とりあえずくらいな!」
ついにシャルディを捉えられる位置まで達した。先ほどまで防御に用いていた西洋剣を振りかざし、シャルディへと迫る。
その時。クルリ、とシャルディが逃げの姿勢から右足を折り畳むようにして腰を捻った。そしてその腰の捻りを開放するように身体を回転させ――。
『あっ、これ不味いやつだ!』
その体勢の意味に気付いたカエデの叫びを聞いてニヤリとシャルディが笑う。
回転と同時に軸足となっている左足首を回転させ、振り上げた右足を真っ直ぐに伸ばしてそのまま渾身の――。
『くらわせろ!“必殺の美脚”!』
中段回し蹴り。
シューマにより発動させられたスキル、”必殺の美脚”により威力を増したそれは凄まじい勢いで繰り出され、アーメスの脇腹に綺麗に入った。
「ぐはぁっ……!!」
『アーメス!!』
ミシリ、と鎧にヒビが入り、アーメスは後方へと吹き飛んで背中から地面に叩きつけられる。
「オーッホッホッホ!銃使いだからって近接格闘が出来ないとでも思いました?油断しましたわね!」
『悪いな。こいつは物理攻撃力もそこそこ高い方なんだよ』
露出した太ももを見せつけるように、蹴りを繰り出した片足を上げたままのシャルディが高らかに笑った。
そして更にスカートの裾をつまんで持ち上げ、脚の露出を更に増やして見せつける。下に履いてあるスパッツが顔をのぞかせた。
「ほ~れほれほれ、これが貴方を吹っ飛ばした美脚ですわよ。さぁ、見上げなさいな、拝みなさいな、時折思い出して幸せな気分におなりなさいな!…………ハッ!オナり――」
『その続きを喋ったらシバくからな』
「急にご褒美がきました!?」
『こいつ、無敵か……!?』
咎めても喜ぶシャルディにシューマは絶句した。
こいつ、どうやったらおとなしくなるんだ。
<必殺の美脚>
レアリティ:R
チャージ時間:中
分類:物理
・全身の力を脚部に集中させることで足技による威力を大きく上昇させる。女性限定。
「やれやれ……。綺麗な脚してんなぁとは思ってたけど、同時に強力な武器だったわけか……。お言葉通りじっくり拝みたいけどそうも言って――うおおっ!?」
ダメージによろめきながらも立ち上がろうとするアーメスに向かってシャルディが構え直した魔銃を連射する。アーメスはゴロゴロと地面を転がるようにしてそれを避けると慌てて立ち上がった。
チッ、外したか。とシャルディとリンクしているシューマが舌打つ。
「ちょっとシューマ様。さっきワタシの身体を勝手に動かしたでしょう」
『お前はお喋りの時間が長すぎる。相手を挑発してる暇があるなら攻撃しろ』
「はいはーい、ですわ」
『それにしても“必殺の美脚”ってスキル名はどうなんだ?宣言が少しだけ恥ずかしいんだが』
そう会話しながらもシャルディは銃撃を休めない。アーメスはそれらを盾で防御しながら姿勢を立て直す。
「おっかねえなこいつら……。マスターもドウルも綺麗な顔してるのに殺意に溢れすぎだろ……」
『でも攻撃力が高いってことはその分防御力は低い筈!
そろそろこっちも本物の暴力ってやつを教えてやろう!さっきのがもう一度来る前に接近戦だ!』
「分かってる!」
最初と同じように銃弾を防ぎ、時には剣で捌きながらアーメスがシャルディへと向かっていく。
シャルディはそれをバックステップで避けようとするも、反応速度が足りず大振りの西洋剣が衣服の胸元を切り裂いた。
「ッ!破廉恥な攻撃ですわね!」
「んなこと言われてもよ!」
シャルディの豊満なバストが大きく揺れ、胸元にデータの乱れのようなエフェクトが生じる。
そして切り裂かされた衣服の下からは下着と胸元の一部の肌が顔を出した。
「……いい物を見た」
「ナギサくん」
「すいません」
黙って試合を見ているばかりだったナギサが小さくガッツポーズをとったが、隣にいるソウハがじとーっと悪い者を見つめるような目で見つめてきたために手を下ろした。
ダメージによって後方へと身体が飛ぶ勢いを利用し、更に後方へと距離をとるシャルディ。
西洋剣の一撃が届かない距離なのを確認し、この距離なら安心かとシューマとシャルディが一息ついた瞬間。
『“鮮血の眼光”!』
突如、アーメスの両目から赤い光線が発射された。
「目からビームですとぉ!?」
予想していなかった箇所から放たれた攻撃に面食らったシャルディはその光線をモロに受け、身体に焼けるような痛みを負う。
防御面を一切気にしていない攻撃特化型のステータス故に今のダメージはかなり痛い。シューマは半分を下回ったHPゲージを見て眉をひそめた。
アーメスは先ほどのミドルキックの仕返しとばかりに、わざとらしくウィンクしてみせる。それはあまり上手ではなかったため、ウィンクしたはずの右目だけでなく左目まで少し閉じていたが。
「騎士っぽい格好だから遠距離攻撃が出来ないとでも思ったか?これがあんたを焼いた瞳だぜ。じっくり見つめてもいいんだぞ?」
『ボクのナイトの瞳は雷属性の100万ボルトでね!』
「……いや、雷属性では無いんだが」
『あーもう、一々ネタにマジレスせんでよろしい』
<鮮血の眼光>
レアリティ:R
チャージ時間:中
分類:魔法
・中距離目掛けて目から血の様に赤い光線を放つ。
チリチリとあちこちが焦げた衣装を見ながらシャルディが「もう!」と喚く。
「さっきからワタシの服を切り裂いたり焼いてみたり!そんなにワタシの裸が見たいんですか!?このドスケベナイト!」
「だ、誰がスケベだ!大体これはバトルなんだから仕方ないだろうが!」
『というかシャルディ。お前、マゾの痴女じゃなかったのか?今のはてっきり気色悪い声を上げて喜ぶとこだと思ったんだが』
喚くシャルディに対してシューマが冷たく言い放つ。やたらと盛りたがったり、自分に罵倒されたがったりしていたので、てっきり今の状況にも興奮しているものだとばかり思っていた。
そんなシューマの発言を聞いてアーメスの背後から現れたカエデの顔アイコンが冷ややかな目でシャルディ――とリンクしているシューマを見つめる。
『えー、そんな性格に育ったってことはプレイヤーである君がドスケベだからじゃないのー?君の記憶から出来たんでしょー?』
『違うわ。勝手にこうなったんだよ』
「ドウルの性格形成自体にはあんまりマスターの記憶は関係ありませんからねぇ。
あ、さっきの質問にお答えしますと、ワタシって自分から脱ぐのは好きですけど無理矢理脱がされるのは好きじゃありませんの。そ・れ・に――」
カチャリ、と銃口をアーメスへと向けて引き金を引く。
アーメスはそれを先ほどまでと同じように盾で防ぐが、シャルディはアーメスが防御に集中している間に彼目掛けて走り出していた。
そして距離が縮まるとタン!と勢い良く地面を蹴り、跳躍する。
「――しまった!」
『にょわっ!対応が間に合わない――!』
初心者狩りを相手にした時のソウハのように――とまで華麗にはいかないが、クルリと宙を舞うように回転しながらアーメスの背後へと回った。
「愛の無い痛みなんて、ただ痛いだけでつまらないですわ――例えば!こんな感じにねぇ!」
そして銃口をガラ空きのアーメスの背中へと向け、引き金を引く。
『シャルディ!”バルカン・ショット”ォ!』
シューマによってスキルが発動されると、一つの銃口からいくつもの弾丸が連射されたかのように放たれた。
「おわああああああ!!」
ダダダダン!と銃撃音が響き、全ての攻撃を食らったアーメスが苦悶の表情と共に叫びをあげる。
“必殺の美脚”による一撃によってひび割れた部分の鎧が割れ、破片が辺りに散らばった。
そして放たれた光弾の何発かは鎧で覆われていない露出した肌の部分へと命中。防御寄りのステータスをしているといってもこれには耐えきれないようで、カエデはアーメスのHPが更に大きく減少したのを確認した。残り3割といったところか。
『HPの減りが早い……。いくつかの攻撃がクリティカルに入ったかな』
焦りの混じった声で呟くカエデ。
クリティカル。攻撃が身体の急所に入った場合、もしくは低確率で発生する現象だ。これが発生した時は通常よりも多くのダメージを与えることが出来、上手くいけば相手の武器や防具を一撃で破壊することもできる。
『フフフッ、ワタシって結構”運が良い”みたいでして』
シャルディが悪戯っぽく笑う。
クリティカル発生率はデーヴァのステータスの”運”が大きければ大きいほど高くなる。この運の能力値が高ければ、更に相手の攻撃もクリティカルに入りにくくなる。
この場合の”運が良い“とはつまりそういうことだろう。
攻撃力と運に特化した能筋。それがシャルディの特徴らしい。
『続けるぞ!頑張って防いでみせろ!“スプレッド・バレット”!』
「蜂の巣におなりなさいな!」
反撃を避けるため大きく後退したシャルディが続けざまに放った1発の銃弾が5発ほどの光弾へと変化する。
更に連続して放った数発の銃弾も同じように変化し、それらは光弾の雨となってアーメスを包囲した。
「ハハッ……、これはちょっと防ぎきれねえかも」
残り体力にそこまで余裕のないアーメスは力無く笑う。
自らが放った銃弾を拡散させるスキル、“スプレッド・バレット”により四方を囲まれたアーメス。
これを防ぐには周囲の飛び道具による攻撃を一点に集中させて受けることのできる“アイアース・シールド”しかない。
スプレッド・バレットは1発の威力を分散させる技だ。全て受けたとしても相当なダメージにはならない筈――。
(――と、奴らは考えているだろうな)
シューマは視界に映った1枚のスキルカードを眺めながら思う。
まだ使っていないスキル、”一角銃“。自身の正面に向かって鋭い光線を放つ長射程かつ高火力の必殺技だ。
その威力の代償として発動中と発動後1秒間は動けないというデメリットがあるが、その一撃で仕留めてしまえば関係無い。アイアース・シールドの防御力の上昇値がプラスされるのは、自身のHPが60%以上だった時のみのはずだ。
そしてアイアース・シールドは周囲の攻撃を自身の盾へと集中させる技。つまり、スキル発動中はこちらの攻撃はどこに撃っても当たるので外しようがない。
――いくら防御力を上げようと、今の残り体力で全ての攻撃を食らって生き残れるはずがない!
(使うしかないよな? さぁ、早く使え。その瞬間が貴様達の最後だ)
――あの女が“アイアース・シールド”の名を宣言した瞬間に“一角獣”を放ち、決める。その瞬間はもうすぐだ――。
『流石にここは使わないとね……。“アイアース・シールド”!』
アーメスの左腕に装備されたひし形の盾の四方が展開し、一回り大きな盾へと変形。そして周囲の魔弾が全て盾へと集中するように軌道を変えていく。
このタイミングだ。シューマとシャルディは共有している互いの心の中でコンタクトをとる。
『“一角銃”!!』
「おブッパですわ!!」
カエデのスキル発動とほぼ同時。待ってましたと言わんばかりに、食い気味でシューマが最後のスキルの名を叫ぶ。
シャルディが構えた魔銃の銃口から魔法陣が展開され、その中央を貫くように一閃の閃光が奔った。
「ひゃっはァー!!ご自慢の盾ごとブチ貫いてさしあげますわァ!!おくたばれやがれえええええ!!」
その閃光はアーメスの身体の正面からは少しズレていたが、“アイアース・シールド”の攻撃誘導効果により大盾に目掛けて軌道が変えられた。
空気の層を裂くが如き勢いで一角獣の角を思わせる鋭い光線が飛んでいく。
――スキルで防御を上げたところでもう耐えられまい。これで、終わりだ!
『――――とか、思ってる?』
甘えよ。
小さくカエデが呟いた。




