史と文学研究会
お昼に、史から店に連絡があった。
「午後4時半からテーブル席の予約をお願いします」
「人数は僕を入れて4人です」
洋子は、少し考えた。
「うん、それで来るのはお友達?」
史がお客様を連れて来るのだから、洋子としてもケーキの一つぐらいは出したくなった。
「えっと、文学研究会の部長さんと副部長さんですから、女の子3人です」
史からの返事は「史と女の子3人」だった。
洋子は、史の好きなフランボワーズのケーキを思いついた。
「うん、わかりました、フランボワーズサービスする!」
洋子は元気よく史からの予約を受けたものの、少し考えた。
「なかなか、モテモテなのはいいけれど・・・上手に相手をしないとトラブルになるなあ・・・」
「そうは言っても、私が史君の彼女になれるわけでもなし、年上過ぎ・・・少し悔しいかも」
多少、変な考えを持ったものの、史たちの来店を待った。
午後4時半、史は約束通り、文学研究会なのだろうか女生徒3人を連れ、来店した。
「はい、いらっしゃいませ」
洋子は、「格闘系の女の子たちとは雰囲気が違うなあ、色白だし」などと思いながら、4人をテーブル席に案内すると、
「あ、珈琲は僕が淹れるって約束なので」
史は、テーブル席からキッチンに移動、珈琲豆を挽きだした。
それを見る女生徒3人は、途端にうれしそうな顔になる。
「あはは、それも目的だったんだね、フランボワーズケーキはサービスしますよ」
洋子は史が珈琲を持ってくるのを待ち、フランボワーズのケーキをテーブルの上に置いた。
女生徒3人の顔は、超有名パテシィエのフランボワーズケーキと史の珈琲に、「超ゴキゲン顔」になっている。
「さて、よろしくお願いします」
史は女生徒3人に、わりとキチンと頭を下げ、女生徒3人も同じように頭を下げる。
少し真面目な雰囲気が漂っている。
「あら、となると新聞部の取材かなあ、史君が文学研究会の取材ねえ・・・わかるのかなあ。史君って可愛くて珈琲と紅茶淹れるのと、音楽が上手は知っているけれど」
洋子は史と女生徒3人の会話が、気になって仕方がない。
そんな洋子を見かねたのか、アルバイトの結衣が声をかけてきた。
「洋子さん、チラッと聞いてきましょうか?」結衣
「え・・・うん・・・でも・・・上手にね・・・」洋子
少しして結衣が戻って来た。
「あのね、洋子さん、少しコアな話ですよ」結衣
「コアって?意味不明・・・恋のトラブル?」洋子
「まあ、そう言えばそうなりますが・・・」結衣
「それ・・・やばいよ・・・」
洋子は、少し焦りだした。
「・・・意味取り違えてますよ・・・洋子さん」
洋子のアセリ顔を見て、結衣は口を押えて笑っている。
「・・・ハッキリ言って!史君を護らないと・・・」
ますます洋子は、焦ってしまう。
「あはは、恋のトラブルってね・・・源氏物語の宇治十帖の話題ですよ、史君もけっこう詳しいみたい、でも何より洋子さんの反応が面白い」
結衣はますます笑っている。
「・・・結衣ちゃん、人が悪すぎ・・・」
意味不明であるけれど、洋子は少しムクレてしまう。
しかし、「史自身の恋のトラブル」が話題ではないとわかり、ようやくホッとした顔になった。
さて、少しして、その「ホッと顔」の洋子に、結衣から追加情報がもたらされた。
「史君、源氏物語絵巻の展覧会のチケットの話をしてたから、誰かと行くのかもしれませんね」
「私もそのチケット手に入れて、史君と行きたくなった、オジャマ虫かな」
顔をしかめる洋子に、結衣がもう一言
「でも、その前に私も史君にインタヴューされたいなあ・・・」
洋子も負けてはいない。
「カフェ・ルミエールマガジンを作る、そうすれば史君のインタヴューを優先的に受けることが出来る、これは一挙両得だ」
洋子は、ここでやっと「ニンマリ顔」になったのである。