カフェ・ルミエール楽団コンサート(3)
マスターから「大旦那」への電話の効果はすぐにあった。
史が翌日から、カフェ・ルミエール楽団の練習に参加することになったのである。
「はい、いらっしゃい」
午後5時、いつものようにチョコンと頭を下げて、カフェ・ルミエールに入ってきた史に、洋子が声をかけた。
「はい、マスターはあと30分ぐらいかな、少し待ちます」
史はカウンターの前に座った。
洋子が紅茶を出していると、由紀が入ってきた。
そして、史にいきなり文句。
「もう!どうして勝手に先に来ちゃうの?」
「待っててって、いったでしょ!」
そして、史の頭をポカリ。
洋子は目を丸くしている。
それでも、史は反論。
「やだって!すぐにポカポカするから痛いし」
「姉貴となんか、一緒に歩きたくないって!」
その史に、由紀はますます怒る。
「うるさい!弟のくせに」
またしても、史の頭をポカリ。
洋子は、笑いだしてしまった。
「まあ、仲がいいねえ、同じ顔して喧嘩しているしねえ」
そんな洋子に、由紀は少し口を尖らせる。
もう一度史の頭をポカリしてから、話出した。
「昨日の晩ですよ!」
「いきなり、大旦那様から、あの無神経な母美智子に電話ですよ」
「母美智子は、年甲斐もなくオタオタしてね」
「大旦那も大旦那です、くだらない電話で」
「この史のピアノコンチェルトが聴きたいなんて言うから」
「榊原先生ともお知り合いらしくてね、その名前も出てね」
・・・とにかく話だすと止まらない由紀である。
「うんうん・・・それで?」
洋子は、笑いをなかなかこらえきれない。
何しろ、童顔の由紀が懸命に文句を言っても、可愛らしくて仕方がないようだ。
「もーーーー!笑いすぎ!」
由紀は、少しは文句を言うものの、話は止められない。
「そしたら、急に母美智子が、史の部屋の駆け上がってきて」
「史は、アホだから、部屋のドアも開けっ放しで、聞こえてきちゃって」
「明日から、練習に必ず参加しなさいとか」
「いい加減な練習とか演奏したら、承知しないとか」
「・・・前日までは、絶対出さないとか、風邪ひくからダメとか、言い張っていたののにね」
「あの、母美智子は、アホだ!史と一緒だ!」
・・・・・・・
あとは、「美智子と史のどうでもいい文句」なので省略。
洋子が結局笑い転げていると、5時半、マスターと榊原が同時に入ってきた。
その姿を見て、史は弾かれたように、立ち上がった。




