カフェ・ルミエール楽団コンサート(1)
夜9時に、カフェ・ルミエール楽団の指揮者榊原氏がいつものように、店に入ってきた。
普段は、カフェ・ルミエールの入っているビルの地下、かつてのキャバレーを練習場に改装したホールで、史の学園の音楽部の学生や音大生、元プロや地域住民と練習をしている。
「はい、おつかれさん」
マスターは、にこっと笑い、カウンターの前に座った榊原に、水割りを置く。
「いや、助かるねえ」
榊原もにっこりと笑い、水割りを一口。
そしてマスターの顔を見た。
「そろそろさ」
マスターも、榊原の意図がすぐにわかったようだ。
「そうだねえ、せっかく練習をしているんだからねえ」
「いつでも、いいですよ、こっちは」
涼子と美幸も、榊原の前にきた。
「コンサートの話ですよね」涼子
「はい、思いっきりお手伝いします」美幸
涼子も美幸もうれしそうな顔をしている。
榊原もうれしそうに頷いた後、
「一曲、追加したくてさ」
「ピアノコンチェルトをね」
少し真顔になる。
「そうなると・・・史君ですか?」
マスターは、今度も榊原の意図を見抜いた。
榊原も頷いている。
真顔は変えない。
「史君には、話をしたの?」
涼子は確認した。
榊原が珍しく真顔なので、不安を感じたからである。
「うん、それがさ、史君に頼もうと思って電話をしたんだ」
「曲選びも含めてさ」
「楽団員も期待していてさ」
榊原は、そこで一旦ため息。
「つまり、史君がやりたくないとか?」
美幸は、首を傾げた。
「そうじゃないんだけど、史君なら説得できるさ」
榊原は首を横に振った。
「・・・そうなると・・・」
涼子は、マスターの顔を見た。
マスターもわかったようだ。
「美智子さんかい?」
マスターが榊原に尋ねると、榊原は頷いた。
「もうね、すっごい剣幕でさ」
「史には時期尚早とか」
「足首がどうとか、風邪気味とか」
榊原は、またため息をつく。
「しょうがねえなあ・・・」
マスターは腕を組んだ。
「美智子さんって、史君のことが心配でしょうがないんだ」
涼子は考え込んでいる。




