史の初リサイタル(7)
史への花束贈呈も全て終わり、大旦那が舞台袖に立った。
華蓮が、アナウンスをする。
「それでは皆様、長い間ご清聴いただき、ありがとうございました」
「ただいまより、当ホールのオーナー近衛よりご挨拶を申し上げます」
大旦那は、ゆっくりとステージ中央に進み、史としっかり握手。
そして、客席に向き、深くお辞儀、挨拶をはじめた。
「本日は、我がホールの初めてのリサイタルをご清聴いただき、誠にありがとうございました」
「また、本日、ここでリサイタルをした史も、初めてのリサイタルになります」
「そして、皆様、ご承知の通り、この史は私の孫になります」
史は、恥ずかしそうな顔で、大旦那の話を聞いている。
大旦那は挨拶を続ける。
「史は、本当に幸せ者です」
「こんなに熱心に聴いてくれる皆さまに支えられ」
「いろいろと、苦労もありましたが、本当に皆さまに支えられ・・・」
ここで、大旦那の眼尻に涙が浮かぶ。
舞台裏のカフェ・ルミエールの面々、里奈、父晃、母美智子、姉由紀も潤んでいる。
また、聴衆のほとんどが、史の今までのことを知っている人ばかり。
目がしらを抑える人も、多々いるようだ。
「史は、これから、音楽家としての道を歩きます」
「まだまだ、成長するよう、本人も努力と研鑽、そして私たちも懸命に支えます」
「聴衆の皆さま、是非」
大旦那は、ここで一呼吸。
そして、より大きな声。
「皆さまも、是非、この音楽家を末永くご支援をお願いいたします」
史と大旦那は、再び客席に深くお辞儀。
聴衆全員が立ち上がった。
そして、本当に大きな拍手。
史も、感動したらしい。
その瞳に涙が浮かんでいる。
舞台裏では、奥様が首を横に振る。
「あの人、用意した原稿の半分も話せない」
「でも、その方が気持ちが伝わる」
カフェ・ルミエールの面々は、それぞれ感激している。
マスター
「大旦那らしいな、最後は簡潔に、気持ちをそのまま伝える」
涼子は、祥子を抱いて、いつのまにか舞台裏に。
「ねえ、祥子、史兄さんの初リサイタルなの、かっこいいねえ」
祥子は、ニコニコとしている。
洋子も泣いている。
「いいなあ、史君、史君が珍しく涙ためている、きれい・・・」
奈津美も、ウルウル。
「こういう場面に立ち会えて幸せ、史君、ありがとう」
結衣は、何度もハンカチで顔を拭く。
「泣き過ぎた、カフェ・ルミエールに勤めてよかったなあ、ずっといたい」
彩も同じようなもの。
「早く戻ってきて、握手したい、アイドルだもの」
道彦は、うれしそうな顔。
「立派な弟って感じかなあ、今度は兄貴の役割をしよう」
亜美も、涙をためている。
「うん、可愛い弟だよ、支え続ける」
奥様が、里奈を手招きした。
そして耳元で何かを告げる。
里奈の顔は、本当に驚いたような感じ。
そして、本当にうれしいのか、泣き出してしまった。
奥様は、その里奈をしっかりと抱きしめている。




