史の初リサイタル(6)
史の初リサイタルの第2部、最終曲となるモーツァルトのピアノソナタ第17番の演奏が終わった。
史が、立ち上がって客席の聴衆全員に深く頭を下げると、全員が立ち上がって大きな拍手と「ブラボー!」と「アンコール!」の大合唱。
史は、本当にほっとした顔で、再び聴衆全員に頭を下げ、舞台裏に戻る。
由紀と里奈が駆け寄った。
由紀
「はい!レモン水」
里奈は、小さなビスケット。
史は、本当にうれしそうな顔をして、レモン水をゴクゴク。
ビスケットを食べる。
「ブラボー」と「アンコール」の声は、やまない。
ますます大きくなる。
鷹司京子が史に指示。
「じゃあ、アンコールお願い」
史は、舞台裏にいる全員に、頭を下げ、再びステージに向かう。
その史は、ステージに顔を見せた瞬間から、客席から地鳴りのような拍手。
ステージ中央に立ち、
「アンコールありがとうございます、ショパンのノクターンを」
と、また深く頭を下げ、ピアノの前の椅子に座る。
そのアンコール曲は、「ノクターン第一番」。
甘く切ない出だしから、聴衆を魅了する。
母美智子もアンコールまで進んで、ようやくホッとしたようだ。
晃にすがって、涙を流している。
「ショパンのノクターンの一番って、私がすごく好きな曲」
「それを弾いてくれている」
晃は、美智子の背中をなでる。
「史の僕たちへの気持ちかな」
「よくがんばって難しい曲を演奏して、最後は家でよく弾いていた曲」
由紀も、結局、また泣き出してしまった。
泣いてしまって、声も出せない。
大旦那と奥様も、少々涙ぐんでいるけれど、奥様が大旦那を諭す。
「あなた、ご挨拶をするんでしょ」
「史君の初リサイタルに、ボロボロの顔はやめてね」
「晴れがましいスタートなんだから」
大旦那は、その言葉で「ほぼ泣き出しそうだった顔」を、締めた。
「わかった、ありがとう、本当に泣き出すところだった」
史のアンコール曲演奏が終わった。
史が、立ち上がり、再び万雷の拍手を受けていると、京極華蓮が、アナウンスをする。
「本日はたくさんの花束をいただきました」
「ここで、御披露させていただきます」
「まず、史君の通われている学園長様、よろしくお願いいたします」
学園長が、大きな花束を持ってステージにのぼってきた。
そして、史に花束を渡すと、聴衆から大きな拍手と歓声。
「史くーん!よかった!」
「おめでとう!」
「こっち見て笑って!」
特に学園の女子生徒からの声が多い。
史は、恥ずかしそうに笑い、花束を持って深くお辞儀。
また、大きな拍手を受ける。
その後は、花束贈呈が続く。
学園内の音楽部、合唱部、自治会、進学する音楽大学、ルクレツィア女史、オーストリア大使館、木村和菓子店、よく利用する産直市・・・様々な人からの花束を、史は几帳面に頭を下げて受け取り続けている。




