マスターと涼子の不安
史がプロとなることについて、マスターは不安でならない。
演奏技術は全く心配ないけれど、それ以外の精神管理や健康管理が不安。
鷹司京子という、しっかり者のマネージャーがいるから、ある程度は任せればいいと思うけれど、それでも不安が尽きない。
今日も、家で涼子とその話題になっている。
マスター
「あの几帳面で真面目な性格だから、やりだすと手を抜かないからなあ」
涼子も実は不安。
「子供の頃から見ているけれど、天真爛漫な由紀ちゃん、悪く言えば大ざっぱな由紀ちゃんと、超繊細な史君だよ」
マスター
「音大に通って、練習と勉強、ステージをこなす、時には文も書く」
涼子
「京子さんが言っていたけれど、ファンクラブも作るみたい、もうプロになるのが知られているから、希望者もあるみたい」
マスター
「ああ、それは俺も店で聞く、若い女の子が多いけれど、それ以外にも多い」
涼子
「それは、史君のステージを見れば、少しでもお近づきになりたいとか、応援したいと思うわよ」
マスター
「昼間の洋子さんの時間帯でも、俺の夜の時間帯でも、客が増えて、それはいいんだけど、史君のことを聞いてくる人が多い」
涼子は、少し昔のことを思い出した。
「ストーカーみたいなのが出ると困るね、前は芸能プロダクションだったけれど」
マスターは渋い顔。
「そうだよねえ、史君、かなり悩んだなあ」
涼子
「ポスターを作ると、ますます・・・顔が売れるよね」
マスター
「史君は、名前と場所と曲だけにして欲しかったみたい、でも京子さんが史君のビジュアルを活かしたいとね」
涼子
「それは、可愛いからね・・・そこまではいいんだけど・・・」
マスター
「警察にも少し言ったけれど、被害が無いと、動かないってさ」
「つまり怪我させられるとか犯罪の事実が無いと捜査しない、そんな余裕が無いらしい」
涼子はため息をつく。
「いつもいつも、後手後手でねえ・・・」
マスターは、それでも気を落ち着かせようとする。
「まだ、デヴューしたわけでないから、少し様子を見るかな」
涼子は、首を横に振る。
「だめだよ、逆恨みする連中が必ず出る、前に柔道部に足首を怪我させられたし、新聞部の顧問には、手首を踏まれたんでしょ?」
マスターもため息。
「美智子さんも晃さんも、実は心配で仕方が無いみたい」
涼子は、苦笑い。
「私、由紀ちゃんの心配が、すごくわかってきた」
マスターと涼子の「史心配話」は、長く続いている。




