史の初回リサイタルに向けて(2)
史の初回リサイタル用のポスター写真を撮影することになった。
史は、最初は嫌がった。
「まだ高校生だし、しっかりとしたプロでもなく」
「内輪のリサイタルだから名前と曲だけでいい」
いかにも派手を嫌う史らしい理由になるけれど、マネージャーの京子と華蓮は、取り合わない。
京子
「ぐずぐす言わないの、男の子でしょ?プロになると何回でもそういうことあるの、これも練習なの」
華蓮
「みんな史君のポスターを見ても感激するの、史君もプロかなあってね、だから上手に撮ってもらいなさい」
史は「うーん・・・うん・・・」と、面倒そうな顔。
その史の前に、京子と華蓮は、20代後半の女性カメラマンを連れて来た。
京子
「いわゆる音楽家を撮影する専門のカメラマンではないけれど、今人気のカメラマンで九條美子さん」
史が、「あ・・・はい・・・」と、カチンコチン気味に頭を下げると、
カメラマン九條美子は最初から史を見て感激している。
「うわー・・・きれい・・・可愛い・・・お肌が白い、色っぽい・・・」
「男の子の色気って・・・別格だよ、この子」
「うーん・・・ずっと撮り続けたい・・・」
「史君って言うの?私の専属モデルになって!」
史は、途中から腰を引き、京子は頭を抱え、華蓮は「あ・・・マズイ・・・危ない」という表情。
それでも、撮影の話は進む。
九條美子
「史君の希望は?」
史
「僕は音楽家がポスター写真に使うポーズって好きではないんです」
京子
「頬づえをついてたりするポーズ?」
華蓮
「にやけている顔もあるし、演奏に専念している顔もあるよ」
史
「音楽が主体で、音楽家が後ろに来る感じがいいなあと」
九條美子
「でもね、史君、そういう引っ込み思案でなくて、史君を売り出したいの」
史は、困ったような顔。
「うーん・・・恥ずかしい」
結局、引っ込み思案なのである。
京子
「とにかく撮影用の服だね、ピアノは地下ホールのを使う」
華蓮
「仕立屋さんを呼ぶよ、既製服なんて使わない」
史は、また引っ込み気味。
「シックな地味なのにしてください」
そんな史を九條美子がピシャリ。
「いい悪いは、カメラマンが決めます」
「史君は、撮影中は、ただの置物なの」
京子と華蓮が驚くほどの強い口調。
史は「はい・・・」と、返事をしている状態。




