史の初回リサイタルに向けて
史は、三月中旬に初のピアノリサイタルを開くことになった。
場所は、カフェ・ルミエールビルの地下ホール。
およそ500人の収容。
大旦那の新年会に出席する一族の面々と知人、入学する音楽大学、地域の懇意にしている人たちだけで、既に満席状態。
そのため、史の家族、里奈、カフェ・ルミエールの面々は、舞台袖で聞くことになってしまった。
さて、史は、リサイタルで弾く曲を、いろいろ悩んでいる。
「バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、ショパン、リスト・・・」
「ラフマニノフ、サティ・・」
「それとも、古い時代のスカルラッティとかテレマンとか」
音大の師匠となる内田先生からは、「史君の好きなのでいいよ、どれでも大丈夫」と言われているので、ますます悩む。
そんな史を由紀が心配するけれど、由紀とて、たいした助言ができるわけではない。
「ピアノとか音楽とか、史にはかなわないもの」
「でも、史って、落ち込むと長いからなあ」
「まあ、面倒な弟だ」
ぐらいしか、言うことができない。
それでも、史は悩んで結論を出した。
「二部構成にする」
「一部はバッハの教科書のような曲で平均律クラヴィア曲集」
「二部は、モーツァルトのピアノソナタ」
「アンコールが来たら、ショパンのノクターンから、一番好きな第一番」
曲も決まった時点で、マネージャーの鷹司京子に連絡。
鷹司京子は、さっそくプログラムノートの印刷や、ポスターを華蓮と検討する。
京子
「史君の顔を大きくしたポスターにするかな」
「全体的にシックな感じがいい」
華蓮
「可愛く写真撮りたいなあ、あのお顔も人気が出る」
京子
「出来上がったら、史君にも見せるのは当たり前だけど、大旦那と奥様、晃さんと美智子さんにも見せる」
華蓮
「え?由紀ちゃんは?」
京子
「ゴチャゴチャ言って、史君に文句を言いかねないから、見せない」
華蓮
「ああ、それは、そうかも、言いかねない、それで史君が悩むと面倒」
京子
「いずれはファンクラブかなあ、それも考えておかないと」
華蓮
「CDとか、動画配信も考える?」
京子
「史君のレベルなら、考えたほうがいいね、必ず売れる」
華蓮
「そうなると、史君が住むのは、やはり大旦那のお屋敷のほうがいいね、ファンが押し寄せる場合もある」
京子
「大旦那のお屋敷なら、警護もしっかりしているからね、住宅地だと近所迷惑になる」
途中から、道彦と亜美も検討会に参加。
道彦
「人気が出るだろうから、今後は、リサイタル当日の会場警備とかも大切だよね」
亜美
「以前の企業で、総務畑だったので、知りあいの会社があります」
京子は亜美に頭を下げた。
「それは助かります、まだ、都内に慣れていないので」
そんな状態で、史の初リサイタルへの準備も、順調に進んでいる。




