清の懐石料理店開店に向けて(1)
清の懐石料理店のオープンが、3月中旬に決定した。
カフェ・ルミエールビルの二階部分を改装したもので、座敷、テーブル席で、合計で20人ほどが、食事ができる。
料理人の主任清は、かつて大旦那の京都のお屋敷の主任を長らく務めていた。
その関係で、子供の頃の、華蓮、京子、由紀、加奈子、史、愛華をよく知っている。
もちろん、マスターとも、長年の知己である。
清は、懐石料理店開店に伴い、都内に不慣れでもあったことから、由紀を伴って、あちこちの都内、横浜などの懐石料理店の味を確認。
それにより、京都とは異なる、この地で受けいられている味覚を、実感。
ただ、それだけではない、大旦那の希望する「日本料理の正当な技術や味覚の継承」を行わなければならない。
そのため、数か月をかけた準備期間となったのである。
開店まで、約一か月前、午後9時、カフェ・ルミエールのカウンター席で、マスターと清、洋子が話している。
清
「もう一人、できれば、料理人が欲しいなあと」
マスターも頷く。
「京都で、一日一組限定とか、人数制限して一人の料理人でこなす場合もあるけれどなあ」
清
「由紀お嬢様は、あくまでもアルバイトとして、考えています」
マスター
「そうだね、大学もあるから」
洋子
「奈津美ちゃん、結衣ちゃん、彩ちゃんも、料理学校でしっかり勉強しているから、上手にローテーションしたらどうかな」
「あの子たちも、腕も動きもいいし、興味津々みたい」
清は、うれしそうに、洋子に頭を下げた。
「それは助かります。私からも直接、お願いします」
マスター
「新しく採用してもいいけれど、今までのメンバーでまかなえれば、それでよし」
「本当に人が足りなかったら、京都のお屋敷から呼べば、問題ないだろう」
清
「はい、それは来る前から考えています、それも考えて弟子を育ててきましたから」
洋子
「清さんの技術は、なかなか真似ができない、基本に忠実で、正確で速い」
マスターはにこっと笑う。
「そうだね、和食の技術では、五本の指に入るかなあ」
清は、恥ずかしそうな顔。
「マスターに褒められると、かゆくなります」
洋子は、クスッと笑う。
「そうね、美智子さんが言ってたもの、鬼料理人って」
マスターは、横を向いて水割りを口に含む。
清
「三月はじめに、一度、内輪の試食会をしようかと」
洋子
「そうだね、お楽しみ、あの子たちにも言っておく」
マスターは、清の顔を見た。
「大旦那、晃さん一家、文化講座事務局、ここの店の昼の部、夜の部」
「夜、一日休んでもいいかな」
清は、マスターと洋子に、深く頭を下げている。




