気づいた由紀(7)
由紀は、史の手を握って、泣き続ける。
「仕方がない」と思うし、「単なる先発隊」と考えればいいと思うけれど。感情がたかぶって、涙が止まらない。
とにかく、史がこの家からいなくなるのが、寂しくて仕方がない。
母美智子は呆れた。
「あのね、由紀、まるで子供」
「そんなに遠くに行くわけでなくて」
「加奈子ちゃんを考えてごらん」
「京都と東京なんだよ」
由紀は、そう言われても、グジュグジュ。
「だって、寂しいもの」
それを繰り返すだけ。
父晃は、それでも由紀にはやさしい。
「たまには、泊まりにったらどうかな」
「加奈子ちゃんのいる大旦那のお屋敷でもいいし、史の洋館でもいい」
「部屋は余っているから」
そこまで言われて、由紀はようやく顔をあげて
「史・・・泊まりたいって言ったら、泊めてくれる?」
涙顔で史を見る。
史は、冷静。
「それはいいけどさ、いないかもしれないよ」
「練習もコンサートもあるから」
「ほぼ、寝に帰るようなもの」
由紀が「うん」と頷くと、史はますます冷静。
「いい?姉貴」
由紀「うん」
史は、厳しめの顔。
「家事をさぼって母さんに叱られたとか」
「家事をさぼりたいから泊まりに来るなんて、ダメだよ」
「うっ・・・」となった由紀に、美智子が追い打ち。
「史の言うことがマトモ」
「由紀は、史に任せて、サボり過ぎだったから」
晃が話をまとめた。
「いいさ、行ったり来たりで、かまわない」
「とにかく、健康管理だけは、しっかりと」
「史の心配は、そこ」
史も素直に頷く。
「わかりました」
由紀の涙も、ようやくおさまった。
「しかたないかな、でも、大旦那の家も近いし」
「加奈子ちゃんもいるし」
「行ったり来たりできるし」
こうして、史が一番心配していた「由紀との別居」は、円満解決となった。




