気づいた由紀(6)
史は、父晃と一緒に帰宅した。
そして、晃が全員をリビングに集めた。
晃が史に促した。
「史から、話をしなさい」
由紀は、胸がキュンとした。
そして、ドキドキがおさまらない。
史は、静かに話しはじめた。
「3月の卒業式が終わったら、大旦那のお屋敷の洋館に、住みます」
「そこから、大学に通う」
「身分としては、音大生、そして大旦那のというか、一族の芸能団体の所属の音楽家になる」
「理由としては、都心に近い方が、様々なコンサートを聴きに行く、あるいは出演するのに便利」
「大旦那のお屋敷は広いし、良いピアノがある、音量に気兼ねなく練習ができる」
「演奏力を磨くこと、音楽力を磨くことが、今後、とても大事なことになる」
由紀は、史の話の途中から、ウルウルとしている。
また、母美智子も、目がしらをハンカチで抑えている。
晃が、史を補足する。
「今は、史のマネージャーを選定している」
「財団から呼ぶことになると思う」
「決まるまでは、当面、華蓮さん」
「そうは言っても、すぐにコンサートに出るわけではない」
史が、また、話をする。
「将来的には、海外の場合はルクレツィアさんにも、お願いするかもしれない」
「お世話になったし、誘われてもいるし、縁を感じているので」
由紀は、涙ボロボロの状態。
史の手を握った。
「史・・・出ていくの?」
「嫌、家にいてよ」
「寂しいもの」
「この家ではできないの?」
晃が、由紀に声をかけた。
「由紀。史が大旦那のお屋敷に行くというのはね、もう一つの目的がある」
美智子も頷く。
晃
「大旦那と奥様はね、もう少ししたら、京都の本家に戻るのさ」
「全ての東京での役職をやめて、隠居したいらしい」
「何しろ、高齢だ」
由紀は、まだ意味がわからない。
首を傾げている。
大旦那の京都に戻ることは、ある程度予想がつく。
それが、史の大旦那のお屋敷住まいと、何の関係があるのだろうか。
晃は、そんな由紀に、クスッと笑う。
「それでね、由紀、私たちも、それに合わせて、大旦那のお屋敷に移る」
由紀の目が丸くなった。
「え?マジ?あの?ご立派な?」
母美智子が、少し笑う。
「だから、史は先発隊なの」
「先に行って、住みやすいように整備するとかね」
「もちろん、当面は大旦那たちが住むし、加奈子ちゃんも大学時代は住むしね」
「そういうことに気を使いながら整備するのは、史ならできる」
由紀から、涙顔が消えた。
とにかく、キョトン状態。
でも、史の手は離さない。
史から、由紀に声がかかった。
「姉貴」
由紀は、史の気持ちが読めない。
「何よ?」
史
「寂しい?」
由紀は、また突然、涙があふれてきた。
「このアホ!」
由紀は、史の手を握りしめたまま、泣き出してしまった。




