気づいた由紀(4)
由紀は、お風呂の掃除をしていても、気持ちが落ち着かない。
そうは言っても、途中でやめてリビングに戻れば、また文句を言われると思う。
史からは「雑にやらないで、また僕にやらせるつもりなの?」とか、母美智子からも、「史の文句を言う前に、自分がしっかりできないでしょ?」と嫌みタップリの言葉が来るのが、わかりきっている。
その上、お風呂の掃除は、水を使ったりするから音がするし、ドアを閉じてするので、全くリビングの声は聞こえない。
「あーーー!気に入らない!はめられた!」
と思うけれど、やりかけた掃除は、途中ではやめられない。
そして、お風呂掃除を終えて、ようやくリビングに戻ると、史も美智子もいない。
あったのは小さなメモ。
「史と買い物に行って、その後、大旦那のお屋敷に行く」
由紀は、ムッとするような、がっかりするような、寂しいような。
「どうして、こう仲間ハズレ?」
「ちょっと・・・史も史だよ」
「あんな母さんと買い物に行って、何が楽しい?」
「その上、また、大旦那のお屋敷?」
由紀は思った。
「こうなったら、サプライズで大旦那のお屋敷に乱入しようかなあ」
しかし、ためらう。
「後で、史は呆れて、無視してくる」
「母美智子も、同じようなもの」
そんな由紀のスマホにメッセージ。
母美智子から
「由紀もたまには、洗濯物をたたみなさい」
「雑にたたまないこと、後で困る」
由紀は、またガッカリ。
「どうして、私の時間を使うの?」
「人権侵害だって・・・そんなの」
しかし、一人になった家で、少々思う。
「今まで、史が私の分まで、黙ってやってくれたんだよね」
「それも、あの几帳面な性格で、ていねいに」
「庭の掃除もしてた」
そう思うと、史の顔が見たくなった。
「史って、余計なことを言わないけど」
「それにかこつけて、文句を言い過ぎたかなあ」
「史のシュンとなる顔・・・ついついイジメたかも」
由紀は、寂しくて仕方がない。
そして、史の顔を見たくて仕方がない。




