気づいた由紀(3)
史が帰ってきても、由紀には「ただいま」くらいしか、声をかけてこない。
由紀は、普段はそれほど気にしないけれど、一日中、史のことを考えていたので、本当に冷たいと思った。
「少しはお話してよ」
と思うけれど、史はどんどん自分の部屋に入ってしまう。
そして、なかなか出てこない。
「乱入しようかな」と思うけれど、「また、オジャマ虫扱いは嫌」なので、ノックもできない。
ようやく、ガタンと史の部屋のドアが開く音がしたので、由紀も身体を起こすけれど、史はそんな由紀の気持ちなどわからない。
どんどん、階段をおりていく。
母美智子と話でも、するのだろうか。
由紀は、妙に気になってしまった。
「何を話するのだろうか」
「でも、私に関係する話なら、少しは声がかかるはず」
「声がかからないのだから、関係ないということか」
「でも、気になる」
由紀も、階段を降りることにした。
リビングに入ると、母美智子と史が話をしている。
由紀
「何かあったの?」
史は、素っ気ない。
「特にないよ」
母美智子は、もっと、素っ気ない。
「由紀は、何の用事?」
由紀は、ムッとなった。
この対応は、まるで「オジャマ虫対応」だと思った。
史から由紀に声がかかった。
「ねえ、姉貴」
由紀にとって、久しぶりの史からの声掛け、少しうれしい。
「何よ、史」
史の次の言葉は、少しがっかりするもの。
「姉貴、お風呂の掃除、ずっとサボってる」
「二週間、ずっと僕がやってる、たまにはやって」
母美智子は、呆れ顔。
「どうして由紀は、そうなるの?」
「史は召使じゃないの」
そこまで言われた由紀は、渋い顔。
「わかった、やるわよ」
そう答えるしかない。
お風呂場に向かった由紀の後方から、母美智子の声が聞こえてきた。
「普段着は、また買うのかな」
「私服で通学だから、ある程度買わないとね」
「部屋は、そのままにしておく」
由紀は、史の大学生活での、私服を揃える話と思ったけれど、最後の「部屋はそのままにしておく」が、気になった。
「部屋をそのまま?」
「史と話をしているんだから、史の部屋だよね」
「別の部屋だったら、私にも相談あるはず」
「私をお風呂掃除に遠ざけての話?」
由紀は、その時点で、背筋が冷たくなった。
「マジ?」
「どういうこと?史の部屋をそのままって・・・」
「史・・・どこかに・・いなくなるの?」
こうなると、由紀は、お風呂の掃除どころではない。




