気づいた由紀(1)
由紀は、最近、史に違和感を感じている。
特に、いつもと変わったことがあるわけでない。
由紀にとって、史は
「弱々しい、やたら真面目、女どもがよりつく、ピアノとか音楽とか文章が上手」
「文句を言うと、下手な文句を言い返してくる」
「ポカリしたいけれど、可愛い」
なのだけれど、何となく史も成長して来て、ポカリもしづらい。
家にいても、史から声をかけてくることなど、ほとんどない。
声をかけるのは、由紀の退屈しのぎがほとんど。
史は、たいてい嫌そうな顔をするけれど。
「でもなあ、最近、顔をあわせる時間がマジ、減った」
「文句を言いたくても、ポカリしたくても、家にいないことが多い」
「私も大学に行っているからコンパで遅くなる時もあるけれど」
「・・・そうじゃなくて、史は最近、イマイチ冷たい」
「文句を言っても言い返してこなくなった」
「それは、私が正しくて、史自身が非を感じているから?」
「そうじゃないなあ、史は時々、変に頑固だ、きっと偏屈者なんだ」
と思うけれど、別のことも感じる。
「私、史に避けられている?」
「イジメ過ぎたかなあ」
「でも、シュンとした顔が可愛いからなあ・・・」
「華蓮ちゃんが来てから、変わったかなあ」
「史のアホは、私に叱られると、すぐに華蓮ちゃんに逃げ込む、甘えに行く」
「それを華蓮ちゃんが、よしよしって、可愛がる」
「ちょっと気に入らない」
由紀は、そこまで思って、ホームページ更新会議のことを思い出した。
「あの時、史はマスターと店に入って来た」
「どこにいたの?って聞いたら」
「大旦那の家とだけ」
「何の用事かも言わない、聞かなかったけれど」
「マジで口が短い」
由紀は、史の部屋のドアをノックした。
「史!いる?あけなさい!」
いつもの強引口調。
史から返事。
「今、忙しいの、後にして!」
由紀は、そんなことでは引かない。
「何やってるの?」
「さっさと開けなさい!」
史は面倒そうな声。
「あのね、ホームページのコラム書いてる」
「邪魔しないで」
史は言葉を追加した。
「大旦那のコラムの手直しだからミスできない」
由紀はやっと引き下がった。
「しかたないなあ・・・私が後で、再点検してあげる」
「さっさと修正して、見せなさい」
そこまでは、声をかけたけれど、史からの返事はない。
由紀は思った。
「マジ、冷たい!前は入れてくれたのに」
「史の心は冷蔵庫?」
「私、嫌われた?」
そこまで思って、由紀は少々、不安を感じている。




