加奈子と里奈(5)
昼食後は、加奈子、史、里奈の三人が揃って、上野へ。
東京国立博物館で、特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」を見る。
史は感心しきり。
「すごいねえ、こういう字って」
加奈子
「力強くて、独特」
里奈
「しっかり見たことはなかったけれど、確かにすごい」
史
「力強さとおだやかさを兼ね備えた独自の書法」
「1文字ごとのバランスを考えず、筆の勢いに任せて書くのかな」
里奈
「パソコンばかりで、字を書かなくなった」
加奈子
「そうやねえ・・・書かないと字って忘れる」
史
「面倒でも、ノートにしっかり書く習慣を無くしてはいけないと思うよ」
里奈
「史君の字は、すごいきれい、真似できない」
加奈子
「子供の頃からそうだよ、華蓮ちゃんも上手」
史
「姉貴は下手、読めない時ある」
里奈
「そういう文句を言うから喧嘩になるの」
加奈子
「それも、もう少しで出来なくなるね」
里奈
「ねえ、お姉さんにしっかり言ってあるの?」
史は首を横に振る。
「直前に言う、今言うと邪魔をしてくる」
加奈子
「大泣きになるかも、それも大変」
「なだめるのが大変」
里奈は困った。
「私も責められるかな」
加奈子
「それはしないよ、そこまでは」
史は言い切った。
「いいよ、気にしないで、僕の家のことで、僕が決めたこと」
「今日は、これでその話はおしまい」
三人は国立博物館を出て、上野駅、山手線に乗る。
東京駅で降りて、目の前の大きなビルに入る。
加奈子
「一度、丸善の本店に行きたかったの」
史
「そうだね、あそこは本も多いし、文房具もたくさんある」
里奈
「喫茶もあるね、あの周辺」
史
「ハヤシライスの元祖って丸善みたい」
加奈子
「うー・・・お昼に食べ過ぎた」
里奈
「今度一緒に来ようよ」
加奈子はにっこり。
「うん!明日の帰りでどう?」
史は、少し考えた。
「姉貴も食べたいって言うかも」
加奈子
「喧嘩しない?」
里奈
「約束して」
加奈子と里奈は、いつの間にか、協調体制が出来上がっているようだ。




