史のアルバイト再開
史は、カフェ・ルミエールで珈琲や紅茶を淹れるアルバイトを再開した。
音楽大学には、推薦入学が決定しているし、高校内での試験も終了しているため、史から「すみません、ほとんどアルバイトができなくて」とのお詫びをして、申し出たのである。
洋子は、笑って首を振る。
「仕方ないよ、気にしないで」
奈津美は大歓迎。
「だって史君は珈琲と紅茶の師匠だもの、まず私に淹れて」
結衣は珈琲を淹れる史にピタリと寄り添い、全てをメモに取ったり、動画を撮ったりする。
「あの細い指がセクシーだ」
よくわからない感想を述べるけれど、とにかく熱心に史の淹れ方を勉強する。
彩は、史の手元の作業をする。
カップを温めたり、珈琲豆や紅茶の茶葉をサッと差し出したり。
「うふふ、いいコンビだ、見ているだけの結衣とは差をつける」
さて、店員間でも、そんな元気が盛り上がっているのだから、来店客にはますます評判がいい。
「はぁ・・・美味しい、この珈琲」
「蒸らし方、注ぎ方かなあ、豆がいいのはわかるけれど」
「自分でも淹れるけれど、こんなに甘味が出ない」
学園長も、店に入って来た。
史に注文したのは、コロンビア。
「ふぅ・・・落ち着く、苦みと甘味がほど良くて」
「さすがだねえ、こっちの道でも才能がある」
カフェ・ルミエール文化講座事務局も、史が珈琲を淹れる時間には交代で飲みに来る。
華蓮は目を閉じて味わう。
「マスターのも美味しいけれど、史君のはまた別格、挽いた珈琲にお湯を注ぐ時のふくらまし方が、完璧だからかな」
道彦も感心しきり。
「パリの珈琲とは比べ物にならない美味しさ、水も違うけれど」
亜美は、うれしくて仕方がない。
「可愛い弟ができたなあ、ピアノも珈琲も紅茶も上手」
華蓮、道彦、亜美が帰ると、由紀が入って来た。
洋子が、史に由紀の注文を伝えると、史はカウンターに出てきた。
史は面倒そうな顔。
「自分で淹れれば?」
由紀はムッとした。
「淹れなさいよ、アルバイトなんでしょ?」
史は抵抗する。
「家で飲めば?」
呆れた洋子が史に
「淹れてあげたら?単なるお客として」
史は、洋子に言われたら仕方がない。
由紀に注文されたダージリンを淹れた。
ついでに、洋子、奈津美、結衣、彩の分も淹れた。
洋子
「ふぅ・・・さすが・・・甘味が違う」
奈津美
「茶葉の開く時間をしっかり見切ってる、すごい・・・」
結衣
「美味しい以外に表現がない・・・どうしてこんなに上手なの?」
彩
「弟子入りするかな、ついでにデートをゲットする、これは一石二鳥だ」
となるけれど、
由紀は
「まあまあ、褒めてあげる」
「家でも、毎日私に淹れなさい」
史は、由紀に隠れてブツブツ。
「何のために店に来たの?」
「マジで面倒な姉貴だ」
「これで家に帰ってもいるし、何かと文句ばかり」
「はぁー・・・もう大旦那の家に移っちゃおうかなあ」
史は、ため息をついている。




