愛華と史(4)
愛華と史は、大旦那のお屋敷で二人だけで話をしている。
何かと文句を言ってくる姉の由紀は、華蓮と加奈子に愛華が来る前に京都のお土産ショッピングに連れて行ってもらった。
華蓮と加奈子も心配したけれど、事前に愛華が二人に「今日は告白はしない、プレゼントを渡すだけ」と、メッセージを送ったため、一応の納得を得た。
ただ、由紀については、それでも簡単には納得しないので、事情を言わずにつれ出した。
史は普通の顔。
「披露宴ではお疲れ様」
愛華は、うれしくて仕方がない。
「演奏が不安だった、急に曲を変えるから、でも楽しかった」
史
「どうしてもサプライズがしたくてね」
愛華
「大受けしてたから、良かった」
史
「こういうのが、ずっと続くといいね」
愛華
「来年は道彦さんも、メンバーだね、正式な」
史は笑った。
「まるでバンドとか楽団みたい」
愛華も笑う。
「そうやね、史君も私もずっと、バンドメンバーや」
史はまた笑う。
「おそらくかなり長いねえ、でも全員、呼吸が読めるから弾きやすい」
愛華は、史に聞いてみた。
「史君でも弾きにくい相手ってあるの?」
史は、真面目な顔。
「うん、自分勝手にどんどんテンポを変える人とか」
「逆に楽譜に書かれていること以外には絶対やらない人とか」
「そういう人には、ただ合わせているだけになる」
愛華は、少し顔を伏せる。
「私は、自分勝手かなあ」
史は首を横に振る。
「そんなことないよ、愛華ちゃんの伴奏はやりやすい、弾いていて楽しいもの」
「加奈子ちゃんも、そうかなあ」
愛華は、少し気になった。
「ねえ、由紀ちゃんは?」
史は、口をへの字。
「姉貴は、自分勝手、打ち合わせと違うことする」
「テンポを速めにって打合せしても、本番でゆっくりしてみたり」
「それで、途中からテンポ速くすると、後で怒る」
愛華は、少し笑ってしまう。
「由紀ちゃんらしいなあ」
史は苦笑い。
「きっと生まれた時からずっと自分勝手」
ここで愛華が鞄の中から
「はい、どうしても渡したかったの」
と出したものは、平野神社のお守り。
史は、にっこり
「へぇ・・・ありがとう」
「普通のお守りに・・・あれ?開運桜?」
愛華が説明した。
「その開運桜は、桜の花を塩漬けにしたもの」
「お湯に浮かべて桜の花びらの色や香りを楽しんだり、そのお湯を飲む事によって解毒作用や咳止めの効果もあるみたい」
「八重桜だけを使ってあって、もちろん花びらも食べられるよ」
史は、本当に喜んだ。
「ありがとう、愛華ちゃん、年末少し風邪引いたから、こういうの助かる」
結局、愛華は「手紙」は渡さなかった。
自分でも、「急すぎる」と思ったようだ。
それより何より、史が自分に笑いかけて来る、自分が渡したものを史が喜んでくれる、そのことで胸が一杯。
「まずは、これが一歩」
「いつかは・・・きっと・・・」
愛華は、史の笑顔を見ながら、心に強く誓っていた。




