京都での新年会兼披露宴(8)
「さて、そろそろ」
史が立ち上がった。
恒例の余興となり演奏をするためである。
加奈子と華蓮は、史の意図をすぐに察知、すっと立ち上がる。
愛華は、史の顔を少し見て、緊張気味に立ち上がる。
ただ、由紀は少し遅れた。
まだ、ビーフシチューの牛肉が口の中に入っている状態。
やっと飲み込んで立ち上がった時には、史たちは、かなり前を進んでいる。
由紀は、ますますムッとする。
「史のアホ!姉に対する気遣いも尊敬もないの?」
「あとでポカリ三発する、もう決定」
ただ、由紀もグズグズしてはいられない。
母美智子が、キツイ嫌み。
「ねえ、さっさと行きなさい、あなた、食べるだけの女?」
由紀
「行くわよ!うるさいなあ」
と、ブツブツいいながら、特設ステージに向かう。
その由紀の後姿を見ている美智子
「はぁ・・・世話が焼ける・・・」
「確かにビーフシチューは美味しいけれど」
晃が、コソッと一言。
「マスターのビーフシチューなんだけれどね、史の一言が事前にあったみたい」
「微妙にスパイスが違うと思うよ」
美智子も、残りのシチューを一口。
「うーん・・・あれ?ドッシリ感の中に、キラっと光るというか」
「ふーん・・・あれか・・・まさかね・・・」
「ほんの少し・・・足したんだ、和のスパイスを」
涼子もシチューを口に含む。
「確かにほんの少しだけど・・・ピリっと辛い、そしてそれが鮮烈さを増す」
「それでシチュー全体が輝く」
「お屋敷の菜園の山椒を使うって、言っていた」
そんな談義になっていると、特設ステージでは、準備完了の様子。
史が司会をはじめた。
「それでは、皆様、あけましておめでとうございます」
その史の挨拶に、全員がドッと湧き、挨拶を返し、大拍手。
史は、ニッコリ。
「それでは、恒例の演奏ということで」
「今回は、僕と姉の由紀、京極家の華蓮さん、従姉の加奈子さん、そして愛華さんが演奏を行うのですが・・・」
とまで言って、道彦の顔を見る。
「道彦さんも、亜美さんへの思い、そして皆さまへの感謝を込めて、一曲」
道彦は笑顔、亜美は真っ赤になっている。
史は、また続けた。
「それから、スペシャルサプライズも用意しています」
「まだ、本人には言っていないので、無理やりです」
「その時には、皆様のご声援をお願いいたします」
史が、そこまで話して、また笑顔。
厨房から、特設ステージを覗いているマスターが、苦笑い。
「おいおい・・・となると・・・俺かい?」
「しかたねえなあ・・・」
マスターの隣で、清がクスクス笑っている。




