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カフェ・ルミエール  作者: 舞夢
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カフェ・ルミエール楽団冬のコンサート(7)

由紀は、顔を真っ赤にして、楽屋に向かった。

とにかく、史の顔が見たくて仕方がない。

ステージでは、大きな拍手がようやく終わった。

となると、史が楽屋に戻ることになる。


「よくやった」ぐらいは、褒めようと思った。

でも、それ以上の言葉は出ないと自分でも、わかっている。


「きっと、泣いちゃう、アホの史に泣き顔を見せたくないし」

「そんな顔見せたら、あのツンと澄ました顔で、何で泣いてるの?って、必ずティッシュ差し出してくる」

「それだけは気に入らない、でも、早く顔を見たい」


由紀は、楽団員でごった返す通路を抜けて、史専用の楽屋のドアをノックした。


「はーい!ただいま!」

奈津美の声が聞こえた。


由紀は、少し焦った。

「奈津美ちゃんも楽屋にいるの?」

「となると、美幸さんも、里奈ちゃんも?」

「史のアホ、お姉さん方を楽屋に入れて何をやっているの?」

「・・・里奈ちゃんは、同級生か・・・」

まるで、冷静な判断ができていない。


史の楽屋のドアは、返事の通り、奈津美が開けた。

そして、この段階では廊下で立ち話。

奈津美

「あら、由紀ちゃん、どうしたの?汗だくだよ?」


里奈も廊下に出てきた。

「史君は、いますよ、でも、ちょっとしたトラブルです」

里奈は、少々、含みのある顔。


由紀は、美幸が出てこないことが、気にかかった。

「ねえ、美幸さんは?史はどうなったの?」

ついつい、聞くことになる。


奈津美は、里奈と顔を見合わせる。

奈津美

「ねえ、里奈ちゃん、どうする?」

里奈

「言ってもかまわないと思うけれど、史君が意地張っているだけですから」


その楽屋の奥のほうから、美幸の声が聞こえた。

「史君、できたよ、これで大丈夫」

史の声も聞こえてきた。

「美幸さん、ありがとうございます、助かりました」


由紀は、キョトン。

「何があったの?」

そして、楽屋入り口には、留まらない。

奈津美と里奈を押しのけ、楽屋に入ってしまった。


「史!どうしたの?」

とにかく、意味不明、心配でならない。


その史は、白いカッターシャツを袖に通している状態。

「姉貴?どうしたの?」

逆に、史からの質問になった。


由紀はムッとなった。

「心配になって来てあげれば、どうしてシャツを今、着たりしているの?」

「一体何をやっていたの?」

いつもの、キツ目の口調になっている。


そんな由紀の前に、美幸が顔を見せた。

そして、笑っている。

「あのね、史君ね、演奏中に、思いっきりやりすぎて、シャツの脇の部分が破れちゃったの」

「ソーイングセットを持っていたのは、私だけだったのでね」

「かなりビリビリだったから、少し時間がかかった」


史は、少し恥ずかしそうな顔。

「三楽章のフィナーレで破けたけれど、もう、必死で」

美幸に頭を下げている。


そうなると、由紀も美幸に頭を下げることになる。

「美幸さん、ありがとうございます、アホの史のために」


美幸は、まだ笑っている。

「由紀ちゃん、アホなんて言っちゃだめ、すっごい演奏したんだから」

「それにね、やっと私も史君のお役に立てたの、すっごくうれしいの」


史が、またポツリ。

「姉貴にだけは、知られたくなかった」

そして、特に由紀にとって、余計な一言が出た。

「姉貴のお裁縫って、下手だし」


由紀は、また真っ赤な顔。

しかし、反論はできないらしい。

「うー・・・事実をこんなところで・・・」


さて、そんな微妙な雰囲気も、すぐに終わった。

奈津美が、木村和菓子店の小麦まんじゅうを、楽屋のテーブルに広げ、里奈が緑茶を淹れた。


楽屋の中は、小麦まんじゅうを食べながらの、ちょっとした「ご苦労さん会」となったのである。

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