カフェ・ルミエール楽団冬のコンサート(6)
史のピアノは、曲が進むにつれて、聴衆、楽団を魅了した。
第一楽章と第二楽章の合間、音大の学園長がつぶやいた。
「史君は・・・音楽の神、ミューズの化身なのか・・・」
「陶然とさせられ、グイグイとひきつけられ・・・」
「歴史的な瞬間なのかもしれない、こんな大きな音楽は聴いたことがない」
ブラームスのピアノ協奏曲第二番は、第三楽章に。
ここでも、史は自在に、ブラームスの世界、大きな音楽の世界を、歌い上げる。
感極まっているのか、両手を組む人、涙を流す人、まったく身じろぎ一つできない人が多くなっている。
さて、カフェ・ルミエールビルの三階レセプション会場では、大型スクリーンに、その演奏の様子が同時に映し出されている。
その様子を見ているのは、すでにほぼ準備が終わったマスター、清、洋子、結衣、彩。
マスターも、史の演奏に全く声がだせない。
途中で「すごいや、これは」と、本当に小声でつぶやいただけ。
清、洋子、結衣、彩にいたっては、スクリーンに映し出される史と、その音楽にひきつけられるのみ、その顔が紅潮し、どうにもならない様子。
そのブラームスピアノ協奏曲第二番も、ついにフィナーレに近づいて来た。
史は、今まででは考えられないような、力感あふれる動きで、ピアノの鍵盤をたたき続ける。
圧倒的なフィナーレだった。
史の指の動きが止まり、指揮者の棒が止まった。
一瞬の静寂があった。
しかし、一瞬だけ。
「ゴーーーーーー!!」
まるで地鳴りのような拍手がホール全体に沸き上がった。
そして、全ての聴衆が立ち上がり、拍手をしている。
史も立ち上がった。
いつもの恥ずかしそうな顔に戻った。
指揮者の榊原氏と並んで、聴衆全体に、深くお辞儀。
そして、また地鳴りのような拍手を、聴衆からも、楽団員からも受ける。
由紀も立ち上がった。
そして、走り出した。
「史!」
由紀には、その言葉しか、浮かばない。
とにかく、史の顔が見たくて、声を聞きたくて仕方がない。
由紀は、立ち尽くして拍手を送る聴衆をかきわけて、舞台袖口に向かった。
母美智子は、顔を抑えて泣いている。
「はぁ・・・ホッとした」
晃は、その美智子の手を握る。
「史は、よくやった、素晴らしかった」
その晃の言葉で、美智子の涙が激しくなる。
大旦那も、涙顔。
「何とも言えん、すごすぎて」
奥様の眼尻にも涙。
「あの子は、別格、もう別次元です」
「わが一族というより、それを超えた存在になる」
史と指揮者の榊原氏は、何度も舞台袖口とホールを行き来し、聴衆の拍手に答え続けている。




