カフェ・ルミエール楽団冬のコンサート(4)
カフェ・ルミエール楽団冬のコンサートの一曲目、ブラームスの大学祝典序曲は、ブラームスには珍しい若々しさと華やかさを持つ曲。
指揮者榊原氏の、曲想を活かした指揮により、全員が笑顔になるような演奏が続く。
大旦那も笑顔で聴いている。
「ああ、学生時代を思い出すなあ、一番自由で、何でも出来た、体力も限りなしだったなあ」
その大旦那に奥様が、苦笑い。
「まあ、汗臭かったけれど、あなたの目もキラキラしていて」
そこでポツリ。
「その目のキラキラに惹かれたのかな」
大旦那は、恥ずかしいのか、横を向いている。
晃と美智子も楽しそうに聴いているけれど、大学祝典序曲は、それほど長い曲ではない。
特に、美智子が胸を抑えてドキドキしている様子。
「次の曲は、史・・・ちゃんとできるかなあ」
由紀も、やはり史の近くに行きたくてウズウズしている。
「ねえ、心配で仕方がないって・・・行っちゃダメ?」
その美智子と由紀に、奥様が一言。
「いけません、そっとしておきなさい、史君を信じましょう」
「そして、どんな状態で演奏が終わっても、しっかりと受け止めてあげること」
晃は、黙ってその言葉を聞いているのみ。
さて、大学祝典序曲は、華やかな盛り上がりの中、フィナーレとなった、
指揮者の榊原氏が、楽団員全員を立たせ、聴衆にお辞儀をすると、万雷の拍手。
そして、楽団員は、再び椅子に座り、指揮者榊原氏は、舞台袖に戻って行く。
美智子の声が震えた。
「大丈夫かなあ、史」
由紀
「史は、本番には強いけれど・・・こっちがドキドキする」
大旦那
「大丈夫だろう、こんなところでオタオタする子じゃない」
奥様
「そんな不安がるのではなくて、応援する気持ちにならないと」
客席にいる家族たちは、そんな状態になっている。
さて、舞台袖で出番を待つ史は、周囲から、一人離れて、目を閉じている。
「鼻の息は 通じるに任せ 喘がず 声せず 長からず 短かからず」
「緩まず 急がしからざれ」
かつて、剣道部顧問の菅沼に教えられた呼吸法を実践している。
その様子を遠くから見ている里奈は、
「大丈夫みたい、落ちついているよ、史君」
奈津美も、じっと見て
「気合いが入っているけれど、固くなってはいない」
美幸も、同じ捉え方。
「普通の史君だよ、でも、あの可愛らしさに、一本筋が通ったような感じ」
指揮者榊原氏が、史の前に進んだ。
「史君、そろそろだよ」
史は、いつものように、キチンとお辞儀。
「わかりました」
いつもの、柔らかな顔になっている。




