史のマラソン大会(2)
マラソン大会の優勝者は史、二位が陸上部、三位が野球部だった。
史は、表彰式にて、学園長から表彰状と記念品と受け取り、大喝采となるけれど、どうにも体育講師の史を見る目が厳しい。
そして、表彰式が終了するないなや、史を大声で呼びつける。
「おい!史!ちょっとこっちに来い!」
「さっさと来い!」
何しろ大声なので、史は当然、学園長や他の教師、生徒たちも驚くほど。
史は、何故、そんな大声で呼びつけられるのも意味不明だったけれど、「はい」とだけ答えて、体育講師の前に。
体育講師は、史に、
「おい!なんだ!史!走れるじゃないか!」
「それで病み上がりか!病み上がりで何で走れる!」
と、またしても大きな声。
史は、首を傾げた。
「はい、確かに、まだそうかもしれません」
「あまりよくなかったことは事実で、ただフォームと呼吸だけを正確にと走っただけで、結果はあまり考えていなかったことが、事実です」
そして、まだ機嫌が悪そうな体育講師に謝った。
「もし、僕の順位が不本意なら、ごめんなさい」
体育講師は、史に謝られても、まだ機嫌が悪い。
「おい!俺を馬鹿にしているのか!」
「何度も何度も、陸上部に誘って断っておきながら!」
「病み上がりのマラソン大会で俺の指導した陸上部の選手を抜いて優勝?」
「お前は俺に恥をかかせるのか!」
誰が聞いても、考えても自分の面子ばかりを考えた理不尽な言葉が続く。
史としては、本来は謝る必要はないと思ったけれど、体育講師がおさまらない。
「とにかく、僕の優勝が先生の気分を害したのなら、謝ります」
ただ、そんなことを言っても、体育講師は顔が真赤。
どうやら怒りだしたら、おさえられない性格のようだ。
困り果てる史の様子を見て、まず生徒たちが文句を言い始めた。
「史君が何の悪いことをしたんですか?」
「史君が先生の指導した選手より、早く走ることは悪いことなんですか?」
学園長は、じっと体育講師と史、生徒たちの声を聞き、見守っている。
剣道部の菅沼顧問が、史の横に立った。
史に禅や呼吸法を教えた菅沼顧問である。
「体育講師、あなたの言われていることが、全く不明です」
「そもそも、史君になんの過失があるのですか?」
「史君は、優勝してはいけなかったんですか?」
「もし、そうであるならば、その理由を聞かせてください」
さすが禅者の言葉、気合がすさまじい。
体育講師は、「うっ・・・うっ・・・」と口ごもり、まったく返せない。
そもそも、「史に優勝されて、自分の面子がない」だけでの、呼び出しであったのだから。
菅沼顧問は、さらに厳しい言葉。
「史君は、あなたの内心まで理解して、謝る必要もないのに、謝った」
「そんな風に、真面目に一心に努力して結果を出した学生を苦しめ、謝らせる?」
「しかも、あなたの意味不明な面子とやらのために」
学園長も体育講師の前に立った。
「体育講師、あとで学園長室に」
「史君のクラスの三輪担任と、本日観戦していた生徒たちから、少々よからぬ話をお聞きしました」
「ことと次第によっては、厳しい話になりますよ」
顔が真っ青になった体育講師に、学園長はもう一言。
「生徒の安全で健全な成長のために学園があるのです」
「あなたの面子のために、生徒があるのではありません」
学園長と体育講師の間には厳しい雰囲気。
史は、体育会系の生徒に囲まれて、走行フォームと呼吸法の話で、ずっと盛り上がっている。




