史とブラームス(1)
冬のカフェ・ルミエールの冬の演奏会が近づいて来た。
演奏曲目としては、ブラームスプログラム。
大学祝典序曲と、ピアノ協奏曲第2番、メインは第4交響曲、アンコールは未定の状態。
尚、史はピアノ協奏曲のソリストになるため、日々懸命に練習を続けている。
「すっごく難しいけれど、やりがいがある」
「一音一音のニュアンスが大切」
「弾くたびに、名曲というのがわかる」
それを家で聴いている由紀も、史の熱心ぶりには感心している。
「確かに難しい曲、でも聴き続けると、そのたびに新しい発見がある」
「バッハ、ヘンデル、モーツァルト、シューマン、シューベルト、ショパン、リスト・・・誰とも違う複雑な音楽性を感じる」
「史も面白いだろうなあ、マジで練習しているもの」
また、時折練習を聴きに来る内田先生も、史の集中力には舌を巻く。
「ブラームスの音楽の扉を開けてしまったね」
「難しいけれど、その中の道を懸命に歩いている」
「史君の今後のためにも素晴らしいチャンス」
「何しろ技術と感性だけでは弾けない曲」
「史君の芸術力というのかな、それを磨くには最高の曲」
指揮者の榊原も内田の意見に納得。
「指揮をしていて、史君のピアノの細かいニュアンスにハッとなることが多い」
「それでテンポを変えたり、ダイナミックスを変える、もちろん楽団員もすぐに対応するけれど」
「仕事の一環で、単に間違いなく曲を弾くプロのピアニストとは違うね」
時折練習を聴きに来る京極華蓮も相当の期待。
「すっごいなあ、史君、こんな難しいのを弾きこなすんだ」
「可愛い可愛いと思っていたけれど、あの姿を見るとお子ちゃま扱いはできない」
「尊敬に値するな、わが一族としても」
久我道彦は、史の多様な音楽性に舌を巻く。
「どんな音楽でもできるね、すごいや」
「ジャズもクラシックも度を越えてすごい」
亜美も、道彦の意見に同感。
「ブラームスは難しいと思っていたけれど、史君の演奏なら聴いていられる」
「ピアノを弾いている史君って、神々しい感じ」
・・・・様々、お褒めの声が多いけれど、練習が終わると史の顔が苦しそうになることが、多くなってきた。
「何か・・・イマイチだなあ・・・自分として・・・」
その表情も暗い。
「楽譜通り、ニュアンスも思った通り、指揮も楽団も文句の言いようがない」
「でも・・・イマイチ・・・」
「何か・・・僕が悪いのかな・・・」
そんな練習が続き、史は胃を抑えて歩くようになってきた。




