由紀と史のデート?(10)
ルクレツィアにお礼を言って、東京駅至近のフィレンツェ料理店を出た由紀は、エレベータの中で、スマホの着信履歴を確認する。
「ああ、あの例の懐石料理店からだよ、何回も入っている」
「心配して、私のスマホにかけたんだけど、出なかったから、家にかけたんだね」
史は、「どうでもいい」と、全く気にしていない。
「二度と行くこともないし、顔も見たくない」
「あの人とか、店がどうなろうと、関係ない」
その史のスマホに清からコールが入った。
清
「史お坊ちゃま、急な話で申し訳ありませんが、由紀お嬢様と、大旦那のお屋敷に来れないでしょうか」
史は、特に予定はないけれど、一応由紀にも聞く。
「ねえ、姉貴、清さんが大旦那のお屋敷に一緒に来てって言っている」
由紀は、嫌とは言えない。
「うん、わかった、確かに予定はない」
「心配かけて申し訳ないことしちゃった・・・って・・・悪いことはしていないんだけど」
史と由紀は、清に「OK」の返事をした。
そして、メトロに乗り、大旦那のお屋敷に向かうことになった。
由紀はメトロの中で、ため息をつく。
「何か、面倒なことになったね」
史も、そんな感じ。
「いろいろ聞かれそう」
由紀
「でもさ、悪いことはしていないと思うよ」
史
「それはそうだけど、結果がこうなった」
しばらく沈黙の後、由紀は史に珍しいことを言う。
「史がいて助かった」
史は、意味不明。
「え?しっかり言って、わかんない」
由紀
「史がルクレツィアさんを知っていたから、ルクレツィアさんの力で、いろいろ進んだ」
史は首を横に振る。
「そんなの偶然だよ、たまたま、そうなっただけ」
「姉貴に、そんなこと言われると、すごく変」
由紀は、史の反応が気に入らない。
「私だって、怒っているばかりではないの」
「評価すべきところは、しっかり評価するの」
「それを何?変って何なの?」
史は、少し笑う。
「姉貴は、怒っている方が姉貴らしい」
「子供の頃からずっと、そんな感じ」
由紀は、ますます気に入らない。
「あーーー!そんなことを理由にして、華蓮ちゃんとか加奈子ちゃんと、仲良かったの?」
「おまけに愛華ちゃんは、しっかり覚えていないしさ」
史は、また笑う。
「ねえ、次で降りるの、そろそろ着く」
由紀は、少し怒った。
「どうして肝心な話を避けるの?」
「ねえ、史!」
しかし、由紀の怒りは史には届かなかった。
メトロは停車し、史はどんどんホームに歩いていく。




